日本応用動物昆虫学会誌
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殺虫剤の土壌施用に関する研究
第4報 浸透性有機リン剤が土壌の硝酸化成およびバレイショの生育・収量に及ぼす影響
小林 尚桂 静江
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1968 年 12 巻 2 号 p. 53-63

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抄録

浸透性有機リン剤の畑地における土壌施用には土壌の硝化作用を増進する効果があること,およびこのためにバレイショが増収することを圃場試験および培養実験によって明らかにし,増収の理由,この増収効果の普遍性,硝化増進の機作および特徴,ならびに硝化増進効果に影響する一部の要因などに考察を加えた。
1) 厨川の火山灰土壌のバレイショ畑におけるNO3-N量はエチルチオメトンおよびIPSP粒剤の播種時6kg/10a条施用によって,施薬25日後ころから徐々に,35日後ころからかなり急激に無処理区よりも増加しはじめ,梅雨期の多量の降雨が始まるまでの約30∼50日間に多くなった。
2) このNO3-Nの増加盛期はバレイショのN要求盛期に一致したため,バレイショは軽度の薬害によって初期生育がやや抑制されたけれども,萠芽約1か月後からNの吸収量が増加して生育がよくなり,いもの肥大量が増加して増収した。
3) これはバレイショが生育期間が短かく,Nの要求度が強い硝酸性作物であるためであると考えられた。
4) 土壌施薬によって土壌中のNO3-Nが増加し,作物のN吸収量が増して増収する現象は,上記両剤に性質が類似する多くの薬剤,ならびに東北農試や宮城農試と土壌環境が類似する所の,Nおよび上記薬剤に対する反応性が類似する,生育期間の短かい硝酸性作物に共通するものであると考えられた。
5) 上記土壌施薬によって土壌中のNO3-Nが増加する原因の一つは,おそらく一種の弱い部分殺菌効果によって施薬25∼35日後頃から土壌中,とくに根系付近の硝酸化成菌と総称される微生物群の活動が盛んになり,肥料中のNの硝化が増進するだけでなく,土壌中に存在する有機物の中のNの無機化も増進するためであると考えられた。
6) 上記土壌施薬による硝化増進,生育好転および増収効果はNO3-Nの給源となるNが適量範囲より過少または過多である場合には小さく,土壌が著しく乾燥した場合やシャーレなどの閉鎖環境下では初期に硝化の抑制が起ってその増進時期が遅れることがあるなど,上記効果には多くの要因が影響すると考えられた。

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