日本応用動物昆虫学会誌
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リンゴハダニの発生消長に及ぼす薬剤散布の影響
西尾 美明今林 俊一
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1958 年 2 巻 3 号 p. 171-178

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抄録

1) 北海道農業試験場果樹園で5本の紅丸を選び,各木をそれぞれ無散布,機械油,DDT, BHC,パラチオン区とし,これら薬剤のリンゴハダニの発生消長に及ぼす影響を調査した。
2) 使用薬剤はマシンゾール80% 20倍,BHC水和剤15% 150倍,DDT水和剤20% 600倍,パラチオン乳剤3000倍である。マシンゾールは4月12日,他の薬剤は6月20日に散布したが,各薬剤の散布回数はすべて1回である。
3) DDT区では6月下旬から8月上旬にかけて著しいハダニの増殖が観察され,無処理区の発生がこれに次いだ。他の3区の発生量は6∼7月はむしろ少なく,かえって8月中・下旬に顕著な増加を示し,また次年度の寄生源たる越冬卵数もこれらの区に多かった。
4) コクロヒメテントウその他の天敵をもあわせて調査したが,これらは薬剤散布区,無散布区ともに夏季にはほとんど見いだされず,したがってDDT区のハダニの増加をこれら天敵の減少によると説明することは困難である。また秋季の機械油区,BHC区,パラチオン区の増加の主要因も天敵の減少によるものではない。
5) 各区の寄主植物の状態を比較したが,夏季ハダニの著しい寄生を受けた無散布区およびDDT区の樹木は夏季後半葉が黄変した。しかし夏季ハダニ数が少なかったBHC区,機械油区,パラチオン区の樹木は,秋季に至るも葉は良好な状態で緑色を保持していた。後者3区の夏季後半および秋季のハダニおよび越冬卵の増加は,寄主の良好な成育状態によったものと思われる。
6) 一般にいわれているように薬剤散布をよく行った果樹園ほどのちにハダニの生息密度が高まり,無散布の果樹園ほど生息数が少なくなる傾向は札幌付近でもしばしば観察される。われわれの樹木単位の調査においても類似の結果が得られた。しかし薬剤散布によって結果的にハダニが増殖する事実から,ただちに天敵の減少を主要因として導き出すことは必ずしも妥当ではない。寄主の状態が主要因となりハダニが良好な寄主に集合増加する場合もあり,われわれの調査結果はこの事実を裏付けている。

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