抄録
ヒメジャノメの生活史と水田内での生命表作成による生存様式を調べた。ヒメジャノメは25°C,16時間日長下で卵期5日,幼虫期21日(雄),24日(雌),蛹期7日で,成虫寿命は34日(雄),20日(雌)で,雌成虫は約130卵を産卵した。発育零点は全ステージの平均で10.3°C,卵から雌成虫産卵中期までの有効積温度は777日度になった。また,幼虫は13時間弱の日長で4令期に休眠にはいり,体色も緑色から淡褐色に変化する。卵は平均4卵の卵塊で産まれる。幼虫の発育と飼育密度の関係では,4頭までの密度範囲では密度が高くなるほど幼虫期間が短縮した。また水田内でもふ化幼虫集団サイズが大きいほど若令期の生存率は高かった。イネとススキを与えた幼虫の飼育では植物の生長初期では生存率が高かったが,生殖生長にはいった寄主植物を餌として与えた時生存率は著しく低下した。野外の生命表と生存曲線の分析から寄生バエ以外の天敵の働きは少く,生長の進んだイネに産卵された時の卵,若令期の死亡(溺死と食いつき失敗)が大きな死亡要因であった。中老令幼虫期の生存率は高く,この研究の結果からはなぜこの昆虫がイネの大害虫にならないのかという理由は分らなかった。