日本応用動物昆虫学会誌
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ハリガネムシに関する研究
第14報 マルクビクシコメツキ幼虫の体内細菌
吉田 正義吉井 雅宏
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1959 年 3 巻 3 号 p. 190-194

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抄録

1) ハリガネムシ(マルクビクシコメツキ幼虫)は飢餓に対する抵抗性がきわめて強いことや,絶食期間におけるそのエネルギー源について疑問を持ったので,自然環境のもとに生息している個体と飼育した個体の体内における細菌を分離して,種類とその消長ならびにその細菌学的性質を調査した。
2) ハリガネムシの体内から真正細菌亜目に属する4属8種の細菌が分離されたが,S1, S4およびS6の細菌は環境のいかんを問わず,いずれの個体にも必ず存在した。他の細菌は分離数も少なく,ハリガネムシの非摂食期に少なく摂食期に多少多くなる傾向から,食物などとともに体内にはいるものと思われる。S4細菌はS1およびS6細菌に比較してきわめて多数分離された。
3) ハリガネムシを無菌飼育装置で室温のもとに飼育したが,10日目ころより他の細菌は消失して,S1, S4およびS6細菌のみとなった。飼育期間は夏期であったが,S4細菌は飼育後1ヵ月目より急激に増加したが,S1およびS6細菌は大きな変化は見られなかった。
4) 体内における細菌の分布は,体液中では分離できず,脂肪組織からS4およびS6細菌が分離された。S4細菌の数はS6細菌に比較して著しく多かった。
5) S4細菌の発育低温限界は10°Cと15°Cの間であった。この温度は春期ハリガネムシが耕土の下層から上層に移行する3月下旬∼4月上旬の平均地温の11∼13.5°Cとおおむね一致した。S4細菌の発育適温は30°Cと40°Cの間と思考される。
6) STAR培地の変法による培地に塗布したS4細菌はBTBを黄色に変え,明らかに綿実油を脂肪酸とグリセリンに分解することが認められたので,S4細菌はハリガネムシの脂肪を分解する細菌と思われる。
7) 農薬で殺したハリガネムシの体内におけるS4細菌の分離数は,正常な個体のそれに比較して著しく多かった。

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