抄録
3種の薬剤,ethylene dibromide (EDB), cis-1, 3-dichloropropene (cis-D)および1, 2-dibromo-3-chloropropane (DBCP)の作用機構を知るため,ここではワモンゴキブリの雄成虫を用い,背脈管膊動数および呼吸に及ぼす作用を調べたところ,次のような結果が得られた。
1. EDBを注射したゴキブリの背脈管膊動数は徐々に減少し,振幅も小さく,不規則となって停止するが,DBCPやcis-Dを処理した昆虫では麻痺後もしばらく無処理の昆虫の膊動数とほとんど変らず,急に不規則となり,減少停止する。
2. DBCPおよびcis-Dを注射したintactなゴキブリでは薬剤処理後,興奮と同時に呼吸量が増加するが,EDBでは興奮がみられないにもかかわらず,呼吸量が増加する。
3. ワモンゴキブリの腿節切片の酸素消費におよぼす影響を調べたところ,1.8×10-4MでEDBは21.5%, DBCPは18.5%, cis-Dは17.0%の阻害がみられた。
4. In vitroでのTCA cycle系酵素に対する阻害度を調べたところ,EDBのみコハク酸脱水素酵素を阻害することが明らかになった。
5. EDB中毒症状とコハク酸脱水素酵素の活性を比較すると,中毒症状と阻害度とは平行して進行することが明らかになり,ゴキブリが完全に麻痺したとき阻害度は37.1%であった。