日本応用動物昆虫学会誌
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ワモンゴキブリの解糖作用におよぼす殺線虫剤の影響
森川 修
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1964 年 8 巻 4 号 p. 277-285

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抄録

EDB, DBCPおよびcis-1,3-dichloropropene (cis-D)で中毒したワモンゴキブリ雄成虫における炭水化物,粗脂肪,α-グリセロ燐酸ならびに乳酸の含有量をしらべた。
炭水化物の消費量はEDBならびに対照として用いたモノヨード酢酸ソーダで中毒したゴキブリでは無処理のものより少なく,それに反し,DBCPおよびcis-Dで中毒した昆虫では多かった。
粗脂肪の含有量はEDB, DBCPおよびcis-Dともに無処理区と差はなかった。
乳酸の量はDBCPとEDBで中毒した個体で多かったが,対照として用いた青酸カリほどではなかった。一方,cis-Dおよびモノヨード酢酸ソーダで中毒した個体では無処理のものと差はなかった。
α-グリセロ燐酸を定量した結果,青酸カリとcis-Dで中毒したものでは有意に増加し,EDBやDBCPでは無処理のものと有意な差はなかった。
さらにワモンゴキブリの腿節筋の0.9% KCl抽出液を用い,嫌気的解糖系酵素の活性に対するEDBの阻害作用をしらべた結果,ヘキソナーゼ,ホスホヘキソースイソメラーゼ,ホスホフラクトキナーゼ,α-グリセロ燐酸脱水素酵素,アルドラーゼ,三炭糖燐酸イソメラーゼ,ホスホグルコムターゼ,エノラーゼおよび乳酸脱水素酵素の活性は1.0×10-3MのEDBにより阻害されなかった。
三炭糖燐酸脱水素酵素の活性はin vitroでもin vivoでもEDBにより強く阻害され,in vivoでの阻害度は中毒症状の進行とともに増加し,ゴキブリが麻痺状態にあるときには約60%の阻害がみられた。
EDBおよびモノヨード酢酸ソーダで中毒し,麻痺症状を呈しているゴキブリにおける三炭糖燐酸を定量した結果,両薬剤とも無処理のゴキブリより約2倍の三炭糖燐酸の蓄積がみられた。
還元型グルタチオン(GSH)とEDBをあらかじめ酵素液に加えて振盪した場合,GSHの濃度が高いとEDBの阻害作用は低かったが,GSHの濃度が低いと阻害度が大きくなった。
GSHとEDBだけを振盪し,次にこれに酵素液を加え,ただちに酵素活性を測定した結果,EDBの濃度が高くなると酵素活性に対する阻害度も増加したが,さきのGSHおよびEDBを酵素液とともに振盪した場合より阻害度は低かった。
EDBはGSHと反応することが暗示されたが,その反応はあまり強くないものと考えられる。
EDBが三炭糖燐酸脱水素酵素と反応する場合,酵素が還元型であることが必要であると思われ,さらにその反応にはある程度の時間がかかるものと考えられる。
DBCPおよびcis-Dのin vitroでの三炭糖燐酸脱水素酵素活性に対する阻害をしらべたが,全く阻害作用はみられなかった。
EDBの類縁化合物であるethylene iodideはin vitroでEDB同様強く三炭糖燐酸脱水素酵素活性を阻害したが,ethylene dichlorideはほとんど阻害しなかった。

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