抄録
目 的
本研究の目的は,母親の出産に参加した際に子ども自身の中に芽生えた意識や感情の様相を明らかにし,子どもにとっての出産体験の持つ意味を探究することである。
対象と方法
助産院または自宅で第2子及び第3子を出産した経産婦とその子ども8組を対象に,分娩第1期から第4期までの母子相互作用について参加観察法によりデータを収集した。また,産褥早期に出産場面で観察したことを母に対して半構造化面接で確認した。得られた有意な場面から現象を解釈した後,カテゴリーの抽出を行った。そして,場面毎に類似性と相違性を比較しながら,現象のパターンを整理し,子どもの出産体験の意味を引き出した。
結 果
母親の出産に立ち会った子どもの体験は,1) さまざまな感情のゆらぎを引き起こす体験,2) 生・性への豊かな感性をはぐくむ体験,3) 出産への参加から思いやりを高める体験,4) 自我を脅かすストレスフルな体験,5) 親密な他者の存在を実感する体験,6) 母子の関係性をゆるがされる危機体験,7) 新たなきょうだい関係を構築する体験であった。カテゴリーは,子ども自身の内面に由来する「内なる自我を育てる体験」と他者との関係性の中で生じた「他者との関係性を確認する体験」の2つに大別された。
結 論
出産は子どもの好奇心を湧き立たせ,いのちへの興味やつながりを感じさせる体験であったが,子どものこころを脅かす危機的要素も孕んでいた。子どもがこの体験を乗り越え,価値のある成長体験とするためには,子どもを支える家族の役割や助産師の援助が重要である。