日本助産学会誌
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原著
妊娠期から産褥期における唾液中sIgAの変化に関する縦断的研究
—経腟分娩と帝王切開分娩による違いに焦点を当てて—
下見 千恵田丸 政男竹中 和子田中 義人
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2008 年 22 巻 2 号 p. 170-179

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抄録

目 的
 局所免疫である唾液中の分泌型IgA(sIgA)は,ストレスにより変動することが知られている。先行研究では運動負荷やメンタルストレスによりsIgAが変動することが報告されているが,妊産褥婦を対象としたデータは少ない。本研究では妊娠期から産褥期の母の唾液中sIgA濃度について,縦断的な基礎データを得て,帝王切開分娩と経腟分娩のストレス状態を比較することを目的とした。
方 法
 健康な妊婦61名(予定帝王切開が決定しているのは19名,経腟分娩に至ったのは42名)を対象とし,sIgA濃度をenzyme immunoassay法で定量した。妊娠期,分娩直後,産褥期の3回唾液採取し,同時期にProfile of Moods States(POMS)を対象に記載してもらった。また,身体的因子として年齢,分娩既往,分娩所要時間,出血量や分娩週数等を調査した。
結 果
 唾液中sIgA濃度は個人差が大きく,妊娠期分娩直後産褥期の各期の値はやや強い正の相関を認めた(P<.01)。 経腟分娩事例では妊娠期と分娩直後では変化がなく,産褥期において増加した(P<.01)。しかし, 帝王切開事例では分娩直後のsIgAは産褥期と妊娠期より有意に高かった(P<.0001)。 分娩既往や分娩所要時間,分娩時出血量,年齢,分娩週数等の身体的因子による唾液中sIgA濃度の差は,殆どなかった。 POMS得点は,妊娠期,分娩直後,産褥期で変化したが,唾液中sIgA濃度とは関連がなかった。
結 論
 妊産褥婦の唾液sIgA濃度は,分娩様式によってその動態が異なることが明らかになった。分娩直後において,帝王切開分娩のほうが経腟分娩よりストレスが高いことが推測された。しかしながら,経腟分娩に比べると帝王切開分娩のsIgA濃度は著しく高かったことから,ストレスだけでなく麻酔などの他の変数が影響した可能性もある。妊産褥婦の時期には,そのストレス評価について特に分娩様式などの要因を考慮する必要がある。

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© 2008 日本助産学会
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