目 的
産後4~9か月の女性において,下部尿路症状(尿失禁と過活動膀胱)の有症率を明らかにすること,および下部尿路症状の有無とQOLとの関連を明らかにすることである。
対象と方法
研究対象者は,生児を得た産後4~9か月の女性で日本語の質問紙への回答が可能な女性である。乳児健診や育児相談に来所した際に質問紙を手渡し,回収箱に入れるか,郵送にて2週間以内に返信するように依頼した。QOLの測定にはSF-12ver.2スタンダード版を用い,症状は過活動膀胱症状スコア(OABSS)により把握し,腹圧性尿失禁の有無と程度等についても情報を得た。
結 果
質問紙は989部配布し,有効回答数は544部であった。平均産後日数は211日で,83.6%が経膣分娩後であった。何等かの尿失禁を有する女性は188名と34.6%であった。腹圧性尿失禁は141名が有し,そのうち頻度は週に1回より少ないが72.3%と最多で,82.0%の女性は妊娠や出産後に症状が出現もしくは悪化したと自覚していた。OABSSにより過活動膀胱が疑われる女性は8.5%であった。
尿失禁および過活動膀胱の有症者は非有症者に比べ,「日常役割機能(身体)」,「日常役割機能(精神)」のスコアが低く,これらの寄与するサマリースコア「役割/社会的健康度」は有意に低値であった。特に過活動膀胱の有症者では,これらのスコアに加え,「社会生活機能」のスコアも低いため,「役割/社会的健康度」の低下は著しかった。また,尿失禁の有症者における「精神的健康度」のスコアは非有症者に比べ,有意に低値であった。
結 論
産後4~9か月の女性において尿失禁は高率に生じており,大半の女性は妊娠や出産が症状の契機となっていることを自覚していた。尿失禁,過活動膀胱ともに症状は軽度であるが,様々な側面でQOLに影響を来していた。有症者では「役割/社会的健康度」が低く,身体的・心理的理由により仕事や普段の活動に集中しにくい実態があった。また尿失禁の有症者では精神的健康度の低下が確認され,症状により憂鬱な気分を覚え,落ち込みを感じたり,エネルギーの低下を経験していると考えられた。