目的:本研究では,全部床義歯装着者の口腔機能(咬合力、咀嚼能力,口腔乾燥状態)を明らかにすることを目的とした.
方法:対象者は,日本歯科大学新潟病院に来院して上顎全部床義歯の製作を行い,経過観察に移行している患者14 名(男性7 名,女性7 名,平均年齢84.8±5.9 歳)とした.咬合力の評価は,デンタルプレスケールⅡ®(GC)を用いて行った.咀嚼能力の評価は,2g のグミゼリー(グルコラム®)を用いた咀嚼能力検査法で行った.口腔乾燥状態の評価は,口腔水分計(ムーカス®)を用いて舌背部における粘膜湿潤度を計測して行った.統計解析は,咬合力および咀嚼能力,口腔湿潤度の評価を行い,それぞれの関係および各検査項目と年齢との関係についてPearson の相関係数を求めた.
結果:咬合力は平均値328.1±120.3 N であり,咀嚼能力は平均値142.7±40.5 mg/dL,粘膜湿潤度は平均値30.1±3.0 であった.咬合力と咀嚼能力の間には相関関係がみられた(r=0.66,p<0.01).各検査値と年齢の相関を分析した結果,咬合力,咀嚼能力および粘膜湿潤度の間には相関関係がみられなかったが,年齢が増加するほど,咬合力と粘膜湿潤度は低下する傾向がみられた.一方,咀嚼能力は年齢によらず,ほぼ一定の値となった.
結論:本研究の結果から,全部床義歯装着者において,咬合力と咀嚼能力の間には相関関係がみられることが明らかとなった.咀嚼能力は年齢によらず,ほぼ一定の値となることが示唆された.