本研究の目的は,各種食品咀嚼時における下顎運動の変化の有無を明らかにすることである.咀嚼能力が基準値(150mg/dL)以上を示す健常有歯顎者に,軟化したチューインガムを主咀嚼側で20 秒間咀嚼させたときの下顎運動を下顎運動解析装置(Motion Visi-Trainer)を用いて記録した.第5 サイクルからの10 サイクルについて,咀嚼運動経路のパターンを5 種類に分類し,正常パターンを示した20 名(男性10 名,女性10 名,平均年齢27.1 歳)に対し,チューインガムの他に3 種類の食品、すなわちグミゼリー,ピーナッツ,ビーフジャーキ咀嚼時の下顎運動の記録を行い,咀嚼運動経路のパターン分類,および定量的指標として咀嚼時の運動量(開口量と咀嚼幅)と咀嚼時の運動リズム(サイクルタイム)を算出した.咀嚼運動経路のパターンと定量的指標に対して4 食品間で比較した.各種食品咀嚼時の咀嚼運動経路のパターンは同一であり,食品の相違による変化は認められなかった.開口量と咀嚼幅は,グミゼリーとチューインガムでは近似した値を示したが,ピーナッツとビーフジャーキでは有意に大きくなった.サイクルタイムは,2 食品間で有意差がみられる場合とみられない場合とがあった.これらの結果より,良好な咀嚼機能を有する健常有歯顎者では,各種食品咀嚼時でも咀嚼運動経路のパターンは変化しないが,チューインガムやグミゼリー咀嚼時に比べ,ピーナッツやビーフジャーキ咀嚼時では運動量は大きくなることが示唆された.