植物研究雑誌
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海産底生珪藻の形態と分類(1),シオハリケイソウ属(オビケイソウ科,オビケイソウ目)
栗山佳奈鈴木秀和南雲保田中次郎
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2010 年 85 巻 2 号 p. 79-89

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抄録

珪藻は有色植物門に属する珪酸質の殻で覆われた真核の単細胞藻類である.その分類は主に被殻の模様に基づいて行われ,特に近年は電子顕微鏡の発達に伴い,より詳細な形態学的情報が得られるようになった.水域には淡水,海水問わず多種多様な珪藻が生育しているが,その生態により浮遊性と底生性に大別される.海洋では,これまで多くの浮遊性種の形態学に基づいた分類学的研究がなされてきた.しかし,底生珪藻に関しては未開拓の分類群が多く,本邦においても研究の途に就いたばかりである.本研究は海産底生珪藻の形態の詳細な観察と分類学的検討を目的としたもので,今後はそれらを一連の研究結果として報告する予定である.本論文では,その代表的なシオハリケイソウ属Tabularia をとりあげる.

 Tabularia 属は,羽状類無縦溝珪藻で, オビケイソウ目Fragilariales オビケイソウ科Fragilariaceaeに属する.殻の外形は針のように細長く,殻端から分泌された粘液物質で,基物,特に海藻・海草または砂粒に付着して生育する (Round et al. 1990).世界中の海域や汽水域に広く分布し,本邦においても近年,数多くの報告がなされるようになった( 南雲・田中1990, 1994,南雲ほか1998,鈴木2005, 鈴木・小林2002,鈴木・南雲2003, 2004, 鈴木ほか1999, 2000, 2007,2008).また,時にノリ養殖場で大発生し,その品質低下をまねく害藻としても知られている( 大貝1986,長井ほか1996).

 Tabularia属は,Kützing (1844) が設立したウミハリケイソウ属SynedraTabularia亜属を,Williams and Round (1986) がタイプ試料を含めたドイツのヘルゴラント,イタリアのトリエステ,イギリスのカーカルディ,およびカナダのセント・ローレンス川河口からの試料をもとに再検討した結果,属のランクに上げたものである.その形態学的特徴は次の通りである.1) 被殻(frustule) の外形が線形,または披針形.2) 条線 (striae) は平行に並ぶ.3) 胞紋(areolae) は篩板(cribrum) で閉塞される.4) 両殻端に殻套眼域(ocellulimbus)をもつ.5) 殻端に唇状突起(rimoportula) をもつ.6) 半殻帯(cingulum) は数枚の片端開放型帯片(open band) からなる.7) 接殻帯片には胞紋列はなく, その内接部(pars interior) は鋸歯状.Williams and Round (1986) はT. barbatula(Kützing) Williams & Round をタイプ種とした他,T. parva (Kützing) Williams & Round,T.investiens (W. Smith) Williams & Round,T.fasciculata (C. Agardh) Williams & Roundの3種を新組合わせとした.さらに,これらを条線構造の違いから,次の3 グループに分けた.条線の殻外面に,i) 2 列の胞紋をもつグループ(T.barbatula,T. parva),ii) 縦小肋で仕切られた胞紋を1 個もつグループ(T. investiens),およびiii)縦小肋で仕切られた胞紋を2 個もつグループ(T.fasciculata).その後,Snoeijs and Kuylenstierna (1991) は,新種T. ktenoeides Kuylenstierna とT.waernii Snoeijs を記載し,さらにSnoeijs (1992)は,T. tabulata (C. Agardh) Snoeijs とT. affinis(Kützing) Snoeijs の2 種を新組合わせとし,世界ではこれまでに計8 種が記載されている.一方,本邦では上記T. ktenoeidesT. waernii以外の6 種の出現記録があり,小林ほか(2006) がT. tabulataT. affinis,出井・南雲(1997) と栗山ほか(2008) がT. fasciculataの殻微細構造を報告している.その他3種の出現分類群に関しては,詳細な形態観察や種間の比較は未だ行われていない.本研究では,その内T. parvaT. investiensと同定される2種を本邦沿岸各地から採集し,殻微細構造を観察した.その結果,帯片の構造に関して新たな知見を得たので,ここに報告する.

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© 2010 植物研究雑誌編集委員会
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