静岡県と和歌山県の沿岸域から得た海産付着藍藻コツブイワツキCyanoplacoma micrococcaを対象に,形態観察と分子系統解析により分類学的検討を行った.本種は今まで遺伝情報が得られておらず,形態観察もほとんど行われていなかった.試料の藻塊は黄褐色の嚢状である点,藻塊表層部の細胞が黄褐色の鞘に包まれる点,藻塊内層の細胞が表層よりも小さい点,飛沫帯の岩上に生育する点から本種と同定された.分子系統解析の結果,本種は同属のイワヒゲノコブC. adriaticaと同じクレードに含まれた.本種のクレード(Cyanoplacoma clade)に含まれる種は,すべて多数の細胞列からなる偽柔組織状群体を形成していた.本研究により得られた成果は,シアノプラコマ属Cyanoplacomaの分類学に新たな知見を提供するものである.
Tabularia属珪藻は現在20種が認められており,そのうちT. sinensisは中国の鄱陽湖で初めて記載された.本研究では日本産T. sinensisを走査型電子顕微鏡で再検討し,接殻帯片(valvocopula)の構造に着目した.以前,本研究者らはT. sinensisの接殻帯片が片方開放している(開環型)と報告したが,今回の観察で両端が閉じている(閉環型)ことを確認した.これは従来のTabularia属には見られず,Ulnaria属に特有の特徴である.試料作製時の損傷で開放したように見えたが,詳細な観察により閉じているのが本来の形であると判明した.T. sinensisは形態的に分子系統解析では異なる系統群とされるTabularia属とUlnaria属の中間的特徴を示すことから,複雑な分類学的位置が示された.
紅藻ウシケノリ目 Bangiales の属は,分子系統解析に基づき再編が行われ, Porphyra属に属していた日本産の種の多くは他のいくつかの属に移った.しかしDNA解析が行われていない6種の所属については未検討のままで,Porphyra属に残されている.そのうちの一種ムロネアマノリ Porphyra akasakae A.Miura は三陸沿岸に分布している.形態学的観察と核コードのnrSSU遺伝子および葉緑体コードのrbcL 遺伝子の塩基配列に基づく分子系統解析の結果,本種はアマノリ属 Pyropia に属する独立種であることが判明した.従って,新組合せPyropia akasakae (A.Miura) N.Kikuchi, Shot.Suzuki, Tamaki & Ta.Abe を提案する.
マキシモヴィッチの Diagnoses (breves) plantarum novarum Japoniae et Mandshuriae(以下 Diagn. Pl. Nov. Jap. et Mands.)および Diagnoses plantarum novarum asiaticarum(以下 Diagn. Pl. Nov. Asiat.)は, Bulletin de l’Académie Impériale des Sciences de Saint-Pétersbourg(Bull. Acad. Imp. Sci. Saint-Pétersbourg:以下 Bull. Acad.)に発表され,Mélanges Biologiques Tires du Bulletin Physico-Mathematique de l’Academie Impériale des Sciences de St.-Pétersbourg (Mélanges Biol. Bull. Phys.-Math. Acad. Imp. Sci. Saint-Pétersbourg:以下 Mél. Biol.)に転載されている.したがって,これら一連の論文で発表された学名はこれまで, Bull. Acad. で発表されたものと扱われることが多かった.しかし,これらの出版年月日について書誌データ上の日付を基に再検討を行ったところ,Diagn. Pl. Nov. Jap. et Mands. のXVI と Diagn. Pl. Nov. Asiat. のIV は,いずれも転載元(Bull. Acad.) より転載先 (Mél. Biol.)の方が1か月早い前年の12月に出版されていることがわかった.これらで発表された学名の正式発表は, Mél. Biol. で1年早く行われたことになる.ただし,Bull. Acad. 27巻4号には出版年月日とみなされる記述が2通りあり,これに発表された Diagn. Pl. Nov. Asiat.のIVについては詳細な日付である遅い方の日付を出版日と見なした.またDiagn. Pl. Nov. Asiat. VIIIは,マキシモヴィッチの死後1893年5月に単独で出版されており,発表はBull. Acad.でもMél. Biol.でもない.さらに,各論文タイトルの側に付された日付[Hara (1937)によれば‘学会’で‘読んだ’日付]が,しばしば出版年月日と誤解されている可能性がある.加えて,出版年月日はほとんどがユリウス暦で記述されているため,グレゴリオ暦との差に注意しなければならない.Bull. Acad.およびMél. Biol.で発表された学名の正式発表については,‘Diagnoses’ 以外の論文でも注意が必要である.
大阪府において新たに発見されたイネ科のイトハネガヤ属 Nassellaに属する外来植物2種,N. entrerriensisコフデイトハネガヤ(新称)とN. neesianaカンムリイトハネガヤ(新称)について報告する.それぞれについて形態的特徴の記載および図示を行い,あわせて日本産の他の本属植物との異同について分類学的検討を加えた.
国際藻類・菌類・植物命名規約(深圳版)第41条5項注記1の適用について,特に“原記載と同一範囲(coextensive with the protologue)”の意味を明確化するため,追加説明を行った.2023年および2024年に発表された新組合せDichanthium jainiiは,1981年にDeshpandeによって有効に公表され,ICN第41条5項に適合する合法名である既存のD. jainiiが存在するため,後続の同物同名(isonym)とみなされ無視される.
パキスタンにおけるマメ科ゲンゲ属Astragalusの研究の中で,これまでパキスタンで記録されたことのない2種,A. monophyllus (Trachycercis節)およびA. saratagius(Pseudammotrophus節)を発見した.これらの標本は,2007年から2009年にかけて,パキスタン北部のギルギット・バルティスタンにあるフンザ県シムシャール渓谷での調査で採集された.これら2種の形態的特徴を写真および分布図とともに示す.
群馬県多野郡上野村の奥多野地域において,2021年にハクロバイDasiphora fruticosa var. mandshuricaの生育を確認した.ハクロバイは国内では本州・四国の一部地域に分布が限定される種で,群馬県新産となる.生育地は既知産地の多くと同様,ほぼ亜高山帯に相当する標高域の石灰岩地に位置し,その断崖上や岩壁に生育していた.生育地点は1か所で,確認された生育個体数は約20個体に過ぎず,狭分布の上に個体数もごく少数であることから,県内でも絶滅が最も危惧される種のひとつと考えられる.群馬県の自生地は,県境尾根を挟んだ埼玉県側の自生地とともに,国内における分布北限と考えられる.