クランベリー類は,しばしば Oxycoccus 属として分類されるツツジ科スノキ属 Vaccinium の一群である.北半球の冷温帯域に広域分布する1または2種と,北米に固有の1種からなる.これまでの研究では,形態,倍数レベル,遺伝的多型に基づいて,種分類,倍数化,雑種について議論されてきたが,地域限定の研究であった.そこで本研究では,クランベリー類の分布域を通じた葉緑体DNAと核DNAによる系統解析を実施することで,種分類と種間交雑について理解することを目的とした.クランベリー類には葉緑体ハプロタイプとITSタイプに基づき,4つの系統群が区別でき,特にITS系統樹からは,ヒメツルコケモモV. microcarpum がこれまで近縁とされてきたツルコケモモV. oxycoccos から区別でき,オオミツルコケモモV. macrocarpon により近縁であることが示された.また,ツルコケモモが地理的に区分される2つの系統群からなる側系統であることが示された.さらに,ツルコケモモと他種との間,ツルコケモモの異なる系統群の間で,種間交雑と浸透性交雑(葉緑体捕獲)があることが明らかになり,種分化後あるいは系統分化後の二次的な接触が示唆された.
岐阜県においてタネツケバナ属 Cardamine(アブラナ科)の未記載分類群を発見した.この分類群の正体を明らかにするために,MIG-seq を用いてタネツケバナ属 19 種の高精度の系統樹を構築した.その結果,この未記載分類群は北海道産のエゾノジャニンジン C. schinziana O.E.SchulzとエゾワサビC. yezoensis Maxim.に近縁であることが判明した.本種は 2‒7 対の側小葉を持ち,側小葉の下縁にのみ浅い切れ込みがある点でエゾワサビよりもエゾノジャニンジンに類似している.しかし,本種は地上茎(細い円筒形で高さは 17 cm 以下,対してエゾノジャニンジンでは太く稜があり,高さ 20‒50 cm),葉の長さ(6 cm 以下 vs. 10 cm 以上に達する),小葉柄(1‒2 mm vs. ほぼ無柄),根茎(短い vs. 長く横に這う)の特徴でエゾノジャニンジンから区別できる.これらの証拠にもとづき,新種ネオタネツケバナ Cardamine neoensis Yahara, sp. nov. を記載する.
シソ科タツナミソウ属 (Scutellaria) は世界中の温帯域 を中心に約 4–500 種,日本には 18 種 7 変種が知られる.国内のタツナミソウ属の調査を行う中で,ハナタツナミソウやヤマジノタツナミソウと混同されてきた 2 新種を見出したので報告する.ハナタツナミソウは,花冠長がムニンタツナミソウを除く日本産の同属他種と比較して長く (11–25 mm vs. 22–27 mm),明らかな葉柄があり,葉の基部は楔形で狭卵形から広披針形,葉の両面や萼に黄色い腺点を多数生じることで特徴づけられる. 今回見出した 2 新種のうち 1 つは徳島・香川・愛媛県に分布し,TI での標本調査の結果,原 寛がハナタツナミソウの変種と認識し S. iyoensis var. epunctata という名前を与えていることがわかった.ただしラベルの記載があるのみで図鑑や学術雑誌等に発表はされていない.本種はハナタツナミソウと同サイズの花をつけるが,ハナタツナミソウに特徴的な葉の両面の腺点がほぼなく (= epunctate),葉柄がほとんど発達しないことで特徴づけられる. もう一方の種は中国地方(= 岡山・広島・島根・鳥取各県)から見つかった.ハナタツナミソウと同程度以上のサイズの花をつけるが,葉両面に腺点はなく,基部が心形~楔形の卵形の葉をつける点で識別が可能である.これら 2 新種とハナタツナミソウ,ヤマジノタツナミソウを用いて MIG-seq による分子系統解析を行った結果,それぞれ独立したクレードを形成した.よってこれらを新種とみとめ,シコクタツナミソウ Scutellaria epunctata A.Takano & Yahara, キビノタツナミソウ S. kibiensis A.Takano & Yahara という名称を提案する.
Vincetoxicum macrophyllum とその近縁種について は,分類学的な取り扱いに加えて,それらの和名について混乱があった.本報では,V. macrophyllum(ツクシガシワ)とその変種 var. nikoense(ツルガシワ)およびV. nakaianum(タチガシワ)の分類学的な取り扱いと,それらの和名の変遷についてまとめた.また,Vincetoxicum acrophyllum Siebold & Zucc. var. nikoense Maxim.,Cynanchum kiusianum Nakai,C. lasiocarpum Koidz. のレクトタイプをそれぞれ選定した.
セリ科ミツバグサ属のPimpinella pulneyensis Gambleは,Gamble が西ガーツ山脈から記載した種で,現在はP. leschenaultii DC. のシノニムとされている.基準産地からの新しい採集品に基づいた詳細な形態学的研究の結果,P. pulneyensis は茎葉の形態,葉の被毛,油管の数と形態,分果の形態などから P. leschenaultii と区別できることがわかり,独立した種として復活させた.両種の詳細な写真と共に,近縁種 P. candolleana を加えた形質の比較表を提供した.
北海道有珠山でタカネハナワラビ Botrychium boreale MildeとミヤマハナワラビB. lanceolatum (Gmel.) Ångstr.の集団を発見した.タカネハナワラビは,国内では有珠山でのみ生育が報告され,1977年の噴火により生育地が消失・絶滅したとされてきたため,約半世紀ぶりの再発見となった.ミヤマハナワラビは,環境省レッドリストで絶滅危惧種IA類に指定されている希少種であり,今回の発見は道内3例目にあたり,最も近い既知産地から400 km以上も離れている.また,北海道では近年の採集例や目撃例がなく,現存する集団としても貴重である.発見した2種の集団は隣接していたが,ほとんどの個体が種ごとにパッチを形成しており,混生はしていなかった.標高や植生などの文献や標本の採集情報から,今回発見されたタカネハナワラビの集団の位置は,噴火によって消失した集団のものとは異なっていたと推定される.発見した集団はいずれも個体数が少なく,有珠山の噴火により生育地が消失する危険性を常に孕んでいるため,保全活動や系統保存が危急的に必要である.
ニリンソウ属がイチリンソウ属から分離されてAnemonastrum と変更されたが(Mosyakin 2016, 2018),日本のフロラではニリンソウと Anemone narcissiflora L. の種内分類群がイチリンソウ属に残されたままになっている.また最近記載されたニリンソウの近縁種フキアゲニリンソウもイチリンソウ属に置かれている.これらの分類群の学名をニリンソウ属Anemonastrumに移して次のように整理した.1. Anemonastrum imperiale (Kadota) H.Ohashi & K.Ohashi フキアゲニリンソウ.2. Anemonastrum flaccidum (F.Schmidt) Mosyakin ニリンソウ(広義).2-1. var. flaccidum ニリンソウ(狭義).2-1-1. f. pleniflorum (Honda) H.Ohashi & K.Ohashi ギンサカズキイチゲ;2-1-2. f. roseum (Hayashi) H.Ohashi & K.Ohashi ウスベニニリンソウ;2-1-3. f. tagawae (Ohwi) H.Ohashi & K.Ohashi オトメイチゲ;2-1-4. f. viride (Tatew.) H.Ohashi & K.Ohashi ミドリニリンソウ.3. Anemonastrum narcissiflorum (L.) Holub ハクサンイチゲ(広義).3-1. var. nipponicum (Tamura) H.Ohashi & K.Ohashi ハクサンイチゲ.3-1-1. f. nipponicum (Tamura) H.Ohashi & K.Ohashiハクサンイチゲ(狭義);3-1-2. f. graciliforme (Tamura) H.Ohashi & K.Ohashi ヒメハクサンイチゲ;3-1-3. f. infraviolaceum (Honda) H.Ohashi & K.Ohashi ムラサキハクサンイチゲ;3-1-4. f. viride (Uematsu) H.Ohashi & K.Ohashi ミドリハクサンイチゲ.3-2. var. sachalinense (Miyabe & T.Miyake) H.Ohashi & K.Ohashi エゾノハクサンイチゲ.3-3. var. villosissimum (DC.) H.Ohashi & K.Ohashi センカソウ.
ネパールおよびインドに分布するタヌキモ科のUtricularia christopheri(垂珠挖耳草)が,中国西蔵自治区に分布していることを確認した.そこから得られた標本に基づいて記載を行うとともに,特徴を示す画像と,同種が属する中国産の Phyllaria 節の種に対応した修正検索表を付した.
ノグサ Schoenus apogon Roem. & Schult. は,日当たりの良い湿地に生育するカヤツリグサ科の一年草または多年草である.『臺灣植物誌』(初版:Koyama 1978,第二版:Koyama et al. 2000)によると,台湾における本種は,1906年5月20日に牧野富太郎によって “Taitung”(台東)で採集された標本に基づいて報告されている.しかし,『臺灣植物誌』で証拠とされた標本 (TAI025813, TAIF5206)および東京都立大学牧野標本館 (MAK) に収蔵されている重複標本(MAK229335, MAK229338),さらに牧野の日記から,採集地の“Daitō (Taitō), Kadzusa”は,実際には台湾ではなく日本の「大東,上総」(現在の千葉県いすみ市太東)であることがわかった.すなわち,1906年5月20日に牧野富太郎によって千葉県の「大東」で採集されたノグサの標本が國立臺灣大學(TAI)と台湾農業部林業試驗所(TAIF)の植物標本館へ送られ,その後,採集地情報が「台東」と勘違いされ,台湾に本種が生育しているとされたことが判明した.これらの標本以外に台湾から本種の採集記録はないことから,ノグサは台湾には生育していない可能性が高い.
キツネノマゴ科キツネノマゴ連キツネノマゴ亜連のヤンバルハグロソウ属Diclipteraとキツネノマゴ属Justiciaは,それぞれ約100種と700種からなる汎熱帯性の属である.インド産のDicliptera leonotis Dalzell ex C.B.ClarkeとJusticia lanceolaria Roxb.の2種について,前者は原記載で引用されているシンタイプから,後者はCALに所蔵されるRoxburghの植物図を,それぞれレクトタイプとして指定した.
サクラソウ科ヤブコウジ亜科のヤブコウジ属 Ardisiaは熱帯に約730種(POWO)を産する.Clarke (1882)はFlora of British Indiaで27種を記載したが,このうちA. keenanii C.B.Clarkeが138年ぶりに再発見された (Barbhuiyaetal 2012).本種の原記載では2点のシンタイプが引用されているが,その後,レクトタイプが指定されていなかったため,インドManipur産の標本(C.B.Clarke 7065 [K000756688])をレクトタイプに選定した.
ユキノシタ科ユキノシタ属はアメリカ,ユーラシア,北西アフリカの温帯・亜高山帯に475種が知られ,ネパールには 85 種が産し,そのうち22種は固有種である.東ネパールのIlam県からユキノシタ Saxifraga stoloniferaをネパール新産として記録した.
苔類ツキヌキゴケ科のアオホラゴケモドキMetacalypogeia alternifolia をミャンマー新産として報告し,記載,写真,分類学的ノートを提供した.本種は腹葉が幅広い(葉の約1/2かそれ以上)ことで同属のヒロハホラゴケモドキM. cordifoliaと容易に区別できる.
北海道上川地方中部の旭川市と比布町,日高地方南部の浦河町において,ヤマミズが新たに確認された.生育地は先白亜紀~白亜紀の石灰岩,チャート,玄武岩溶岩などの古い地質で,今のところ寡雪環境である岩礫地とその岩上,岩壁において確認されており,自生種と考えられる.