植物研究雑誌
Online ISSN : 2436-6730
Print ISSN : 0022-2062
ISSN-L : 0022-2062
北アルプス上高地の自然林における腐朽木生変形菌の生態
高橋和成原紺勇一
著者情報
ジャーナル フリー

2016 年 91 巻 4 号 p. 205-217

詳細
抄録

多くの変形菌は倒木などの腐朽木上に発生するが,森林内での種多様性や生態についてはよく分かっていない.本研究の目的は,北アルプスの特別保護地区にある上高地で,落葉広葉樹と針葉樹の腐朽材に出現する変形菌を季節的に調査し,変形菌の季節性と樹種および木質腐朽段階への選好性を明らかにすることである.調査は2011–2013 年に行い,本地域に87 種2 変種の変形菌が分布することが明らかになった.変形菌の種群の夏と秋の類似性は,百分率類似度で0.239 となり低い値であった.落葉広葉樹には60 種,針葉樹には64 種が出現し,樹種間の類似度は0.463 であった.変形菌の種群は,非計量多次元尺度構成法により季節と樹種の違いで区分された.全出現種の55%にあたる49 種が,季節性や樹種選好性を示した.多くの種は適度に腐朽した木質に出現し,特定の腐朽段階に出現する種として38 種が認められた.変形菌は森林内の腐朽木に季節的に発生し,樹種や木質の腐朽段階を選び分けて分布している.こうした生態的分布パターンにより,森林生態系における変形菌の種多様性が維持されていると考えられる.

著者関連情報
© 2016 植物研究雑誌編集委員会
前の記事 次の記事
feedback
Top