植物研究雑誌
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『植物研究雑誌』の創刊と発展を支えた人々
大場秀章
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2016 年 91 巻 suppl 号 p. 24-41

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抄録

『植物研究雑誌』は1916 年に牧野富太郎によって創刊された.全国各地の植物学のセミプロやアマチュア,学校教員,とくに文部省が実施する教員検定試験,通称文検,の受験志望者が想定された読者だった.当初,財政基盤は脆弱だったが津村順天堂の創設者,初代津村重舎からの支援を得て,財政基盤は安定し刊行を今日まで維持できるようになった.

 津村重舎は本誌の編集に干渉することはなかったが,東京帝国大学医学部教授朝比奈泰彦に本誌への協力を依頼した.朝比奈はこれを受諾し,牧野富太郎に替って9 巻から編集主幹を引き受け[27 巻(1952 年)に編集委員制度に変わる],亡くなる年の50 巻8 号(1975 年)までその地位にあった.

 久内清孝と清水藤太郎は植物学や薬学の分野で積極的に朝比奈を支援した.とくに久内は語学に堪能で,自然史や日欧文化に該博な知識をもち,本誌の編集を多方面から支援した.朝比奈が本誌の編集主幹・代表を長年続け得たのも久内の協力なしには考えられない.

 東京帝国大学理学部教授中井猛之進は,朝比奈が編集主幹となった『植物研究雑誌』を支援した.また,彼が指導した,小林義雄,伊藤 洋,前川文夫,原 寛,津山 尚,木村陽二郎は,後に編集員となり,薬学の藤田路一,佐々木一郎らと共に本誌の発展に尽力した.植物学と薬学という異分野間の交流に大きな役割を果したのも久内である.

 多様性の解明に関る自然史や民俗植物学(生薬学)は本質的に複数の研究分野を跨ぐ,分野横断的な性格をもつ研究領域であり,現在進行しつつある学術誌の過度の細分化にはなじまない.‘種’を基盤とする多分野の研究成果や研究紹介を与る学術雑誌は,自然史にとって欠かせないものがあり,『植物研究雑誌』はその役割を今日に果し続けている.

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© 2016 植物研究雑誌編集委員会
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