2023 年 98 巻 5 号 p. 240-246
マメ科ミソナオシOhwia caudata (Thunb.) H.Ohashi の基礎異名であるHedysarum caudatum Thunb. の原発表protologue (Murrey 1784)とThunberg, Flora Japonica (1784) の記載には標本が引用されていない.Thunberg採集の日本植物標本はオリジナル・セットがUPSのThunbergハーバリウム(Thunb. Herb.) にあり,ここにH. caudatumの標本Thunberg 17287 (UPS V-129398)が1点ある(Fig. 1).これまでこの標本はH. caudatumのホロタイプと見なされてきた.しかし,この標本は花の咲き始めに採集されており,原発表とThunbergの記載に明記されている豆果をつけていない.Thunbergは日本植物の重複標本をヨーロッパの多くの研究者に配布したので,その中に原発表に一致する豆果をつけた標本の含まれた可能性があると考え,Thunberg標本を所有するヨーロッパ各地のハーバリウムに問い合わせたが,ThunbergのH. caudatum 標本は見つからなかった.しかし,オランダ・ライデンのNaturalis Biodiversity Centerのvan Royen HerbariumにThunberg 17287の重複標本と比較して矛盾することのない標本L0224752 (L)を今回発見できた.しかし,この標本にも果実はなくThunberg 17287 の重複品であるとのラベルや手紙類など具体的な証拠は見つからなかった.このようなThunberg標本の可能性のある標本が存在する事実から推測すると,Thunbergの果実付きのH. caudatum がヨーロッパのどこかの標本館にある可能性を否定できないと思われた.Thunberg 17287 (UPS V-129398) は現在ではH. caudatum の唯一の原資料だが,原発表との間に重要な形質の不一致があるために,この原資料をホロタイプと正式に認めることは正しくないと判定した.したがって本論文でThunberg 17287 (UPS V-129398) をH. caudatum のレクトタイプと指定した.