抄録
本稿は、ネパール・カトマンドゥ盆地で廃棄物が暗示してきた空間と、その変遷について論じるものである。カトマンドゥ盆地では、人体の分泌物に関係する廃棄物が家屋や集落のウチとソトの境界を暗示してきた。特に、家屋のウチの衛生的な清潔さと儀礼的な清浄さは、女性が確保するべきであるとされてきた。1990年代の開発プロジェクトにより、女性グループが各地で結成された。それにより、女性たちの活動範囲と人間関係は大きく拡大した。同時期に廃棄物の質と処理方法が大きく変化した。近年、女性たちは廃棄物を処理するための組織を立ち上げた。彼女たちは「ハムロ(我々の)」という言葉を用いて、廃棄物処理活動の動機を説明している。彼女たちが清潔に保ちたいと考えるハムロ・空間は、伝統的な集落の空間とも、行政により管理された公共の場とも異なる、現代カトマンドゥ盆地に新たに出現した、身近でありつつ、より開かれた空間である。