2008 年 2008 巻 20 号 p. 29-52
インド音楽史研究についての現代インドのナショナリスティックな議論において「インド音楽はヴェーダに起源を発し、バラタの舞踊経典などのヒンドゥー文化に育まれた」ことが強調される。しかしヒンドゥースターニー音楽 (北インド音楽) はインド土着の音楽に外来のペルシア音楽を混合して生まれた音楽スタイルであり、これを単純にヴェーダやバラタの舞踊経典の延長線上にあるものとして捉えるのは、事実に反している。13-15世紀頃のヒンドゥースターニー音楽形成期において多くのムスリム音楽家が活躍し、それ以前にはなかった芸術革新・意識拡張を可能にした。その際の様子をサンスクリット・ペルシア語の両方の文献を用いて具体的に検討した。