日本外傷学会雑誌
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総説(日本の外傷外科の夜明け)
重症型肝損傷の治療戦略の変遷と治療成績について
葛西 猛中山 恵美子伊藤 太一中井 智子田中 研三伊藤 憲佐大橋 正樹
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2011 年 25 巻 4 号 p. 447-454

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抄録

 過去29年にわたり, 重症型肝損傷の治療成績を向上させるため, 度々治療戦略を変更してきた. 前期 (1979-1984) は専ら肝切除を行ったが, その手術成績は死亡率64.3%と不良であった. 中期 (1985-1994) は肝切除の適応条件の設定と補助手段の適切な運用を重視した. その結果肝切除の手術成績は向上したが, damage control surgery (以下DCSと略す) と重症型肝損傷に旁肝静脈損傷合併例 (以下IIIb+JHVと略す) の治療成績に向上はみられなかった. 後期 (1995-2007) は損傷形態より循環動態を重視し, 治療法としては肝切除, DCSに加えてNOMのいずれかを選択することにした. その結果, 死亡率を11.4%まで低下させることができた. 今後の課題はDCSとIIIb+JHVの死亡率を低下させることに尽きる. 前者に対してはdeadly triadの閾値を下げ, 可及的早期にDCSを行うことと後出血に対して積極的に径カテーテル動脈塞栓術 (transcatheter arterial embolization, 以下TAEと略す) を適応すること, 後者に対しては, perihepatic packing後種々の補助手段を適切に追加することが重要と考えている.

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© 2011 一般社団法人 日本外傷学会
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