抄録
症例はうつ病治療中の56歳男性.文化包丁で,頸部・胸腹部・手関節を計28ヵ所自傷し,約6時間後に救急搬送となった.来院時,活動性出血や,出血性ショックは認めなかった.同日,緊急胸腔ドレナージ術,開腹止血術を施行した.第4病日に発語困難を訴え,MRIにて両側基底核の高信号域(DWI,FLAIR)を認めた.MRAでは,血管病変は認めなかった.脳血流シンチでは,左大脳基底核の血流低下を認め,脳循環予備能の低下が明らかとなった.元来うつ病で,脳血流が低下し虚血のリスクの高い患者が,刺創による循環血液量低下が誘因で大脳基底核虚血性病変を合併したと考えられた.