抄録
1995年の阪神淡路大震災を契機に様々な外傷診療改革が始まったが, 外傷センターの設立のみが遅々として進まない. 行政は総人口が減少し, 予防対策により外傷死も減少していることから, 外傷センター必要の議論を先延ばしにしている. 既存の施設から外傷センターを認可する場合, 高すぎる条件では参加施設が少なく, 低くすると外傷センターの乱立を招く恐れがあり患者の集約化に逆行する. 病院経営者にとっては, 現状の医療保険制度では外傷のみで収益性を確保する経営は困難である. 一般市民の考える「外傷センター」はどんな外傷も診てくれる施設であり, 良くなる実例を示さなければ必要性は認知されない. 若い医師にとって外傷学は学習効率が悪く認知度も低い. また専門医になるハードルが高いため敬遠される. しかし年間12,000件ほど発症する重症外傷患者にとって外傷センター設置とそこへの集約化は必要であり, 特区制度などを利用して実現させたい.