2019 年 45 巻 2 号 p. 87-97
本症例では、パニック症と広場恐怖症を合併した嘔吐恐怖症のため、外出困難に加え、食事内容にも著しい制限を抱えていた女性に対する個人認知行動療法が奏功した一例を報告する。身体の内部感覚(喉の違和感など)を嘔吐の前兆で、嘔吐することで他者が否定的な評価をするという信念の過剰な偏りが同定されたため、パニック症の治療に先行して、嘔吐恐怖症にパニック症の認知行動療法の治療者用マニュアル(関・清水,2016)を援用した。治療の前後で、嘔吐恐怖評価尺度の平均点は78.0点から37.3点に、嘔吐のSUDsは70点から20点に低下した。さらに、別途行われたパニック症のテレビ電話を用いた遠隔の認知行動療法にも顕著な反応を見せた。本稿は、上記の技法で、重症化した嘔吐恐怖症を改善しうることを示唆しており、今後の嘔吐恐怖症の心理学的介入の一般化につながる可能性があるため、ここに報告する。