2023 年 49 巻 3 号 p. 125-134
本稿では、ケミカルコーピングが疑われた血液がん患者に対して認知行動療法を行った事例を報告した。本事例はレスキュー薬の使用に先行して不安が生起しており、疼痛を緩和するためだけではなく、不安を軽減するためにもレスキュー薬を使用していると考えられた。そのため、臨床心理士が面接の中で入院生活の不安について話す行動を強化する介入を行うことで、不安が軽減され、ケミカルコーピングが消失したと思われた。本事例は介入を開始したタイミングに先行して化学療法が導入されたため、認知行動療法の効果のみでケミカルコーピングが消失したと説明するには限界がある。しかしながら、ケミカルコーピングのような新しい概念であっても、ケース・フォーミュレーションを行い、患者がもともと持ち合わせているスキルに注目し強化するという形で認知行動療法を適応することが可能であると示唆された。