生物教育
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研究論文
ハグロトンボ個体群の構造と高校生物の教科書で扱われているリンカーン法による個体数推定値の評価
田口 正男
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1999 年 39 巻 3-4 号 p. 140-147

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抄録

神奈川県津久井郡城山町の小河川において,標識再捕獲法を用いてハグロトンボ個体群の構造を調査した.その結果,本種の分布は谷戸の中程の流れのおだやかな約800mの区間に限られていた.雄は分布域の上流側において,雌より広い範囲に分布した.河川内の移動は雄でははっきりした傾向は見られなかったものの,雌では標識日から日が経過するにつれて上流域へ遡る傾向が見られた.これは幼虫期の流下を補う意味があるものと思われる.

ジョリー法による個体数推定値を基準として,リンカーン法の個体数推定値の信頼性を比較検討した.調査間隔が4日,7日間の場合はリンカーン法による値は過大に算出された.これはリンカーン法が調査日間の個体の加入や死亡を考慮しないために生じたものと思われる.一方,調査間隔が1日の場合には両者の値の間に大きな相違は認められなかった.これはリンカーン法でもある程度調査間隔を短くとって加入や死亡個体の影響を少なくすれば,信頼されうる個体数推定値が得られることを意味する.リンカーン法は計算も簡単で,中・高校生であればらくに使いこなすことができ,またその意義も理解しやすい.トンボ目昆虫のような生物種を用いれば,容易に生物教育に導入することができる有効な研究法といえる.

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© 1999 一般社団法人 日本生物教育学会
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