1999 年 40 巻 1 号 p. 2-12
大学入試は将来の各分野を担う人材選択の第一歩であり,大学入試問題には,それぞれの分野に進学するうえでの必要な知識や能力に対する各大学の意向が反映しているものと考えられる.そこで,生物の入試問題を例にとって,(1)1990~1995年の入試問題の内容と,自然科学系学部(理学部,工学部,農学部,医学部,歯学部など)への進学者向けとして大学や高校の生物学の教員によって理想化された高校生物の学習内容との比較,(2)大学入試センター試験の導入前(1988・1989年)と導入後(1995・1996年)の自然科学系学部の入試問題における複合問題の割合,の2点を中心に,入試問題に反映されている大学の意向について調査を行った.その結果,調査したのべ88小テーマのうちの約90%が選抜のための出題とみられる極端に細かな知識を問う内容以外であり,そのうちの25%が生物の教員によって最も理想的とされる内容であった.一方,1つの問題を構成する個々の問いの配列の点で,基本を内包していると考えられる選択レベルの学習内容にやや偏った入試問題が出題されていた.また,センター試験の導入前に比べて,導入後では複合問題の出題率が約1.3倍増加していた.以上の2つの結果から,基本を前提として,さらに知識を総合化する能力を持つ生徒を,将来の自然科学系の人材として選抜しようとする大学の意向を反映したものと考えられる.