2000 年 40 巻 3-4 号 p. 158-165
大学生に対してアンケート調査を行い,高等学校生物における発生分野の学習内容の理解度を調べた.その結果,原因と結果の関係がわかりやすい形成体については理解度が比較的に高いが,複雑な現象である両生類の三胚葉形成や原基分布図の意味については理解度が比較的に低いことがわかった.他方,学生はビデオ映像やコンピュータ動画が教材として使われることを希望しており,複雑な発生現象を視覚的に捉えたいという意識を持つことも示された.この状況を踏まえ,まず二次元で表されてきた原基分布図を三次元的,立体的に表した.次に,各予定域の発生に伴う移動を三次元的に図示し,痰胚形成の進行に伴って予定神経域が神経板となること,予定表皮域が神経板以外の体表を包むこと,そして中胚葉の各予定域が胚の内部へと陥入し外胚葉の内面に接して位置するようになることなどを示した.これにより,予定域の意味や三胚葉形成の進み方,さらに「分化の決定」の概念の説明が容易になると思われる.大学生への調査は,これらの三次元的図が発生現象の理解に役立つことを示唆しており,このような教材の工夫は,発生の基本を理解し,さらには,現在未解決の問題を認識することにもつながると期待される.