2003 年 43 巻 3 号 p. 117-126
高校生にタンパク質の消化の様子を分子レベルで観察させることを目的に,著者は以前SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法を用いた実験系を開発し,報告した〔生物教育38(3, 4)〕.その実験が真に授業で使えうるものかどうかを調べるために,これまで高校3年生の「生物II」で4回,高校2年生の「総合理科」で1回の計5回,実施してみた.
ほとんどの場合,ゲルはあらかじめ教師側で作成しておき,生徒は主に電気泳動にかける試料の調製,およびそれをゲルのサンプルスロットに入れることを行った.
タンパク質の消化実験では,消化酵素にはペプシンを,基質には牛乳を用いた.また,いろいろなタンパク質を検出するという目的で,牛乳,卵,鶏肉などの食品をSDS溶液を加えてすりつぶし,電気泳動にかける実験も行った.
結果として示された電気泳動像より,生徒は様々な考察をすることができ,また,対照実験の意義の理解も深められたようである.
「総合理科」では,2グループの生徒が自由研究で電気泳動の利用を希望した.電気泳動を利用して,1つのグループはメダカのふ化酵素の最適温度に関する研究,もう1つのグループは血液中のタンパク質に関する研究を行った.
以上5回にわたる生徒実験より,分子生物学ではなくてはならない手法である電気泳動法は,生徒にとって理解,操作は比較的容易であり,授業で扱うことに十分値する実験系と考えられる.