2003 年 43 巻 3 号 p. 108-116
多細胞生物の体が多数の分化した細胞から成ることは,主に高等学校生物IBで学習する.しかし,このことを生徒に十分に理解させることは難しい.走査電子顕微鏡(SEM)によって組織や器官を構成する細胞の位置関係だけでなく,それら細胞の内部微細形態も観察できる.多細胞生物の組織.器官を構成する細胞とその内部の核などの細胞小器官が同時に観察できれば,多細胞生物の体は様々な大きさと形の細胞から成り,細胞が有機的な関連を持って組織化されていることを示すことができると考えられる.汎用型のSEMは,既に一部の高等学校に設置され,授業に活用されている.そこで本研究では,高等学校での授業や観察実験にSEMあるいはSEM画像を活用することを目的に,組織.器官の光学顕微鏡観察に使用されることの多いヤブッバキ(Camellia japonica L. var. japonica)の葉を材料として,細胞内微細形態が汎用型のSEMでどの程度観察できるかを調べた.その結果,汎用型のSEMでも細胞内微細形態がある程度観察できることがわかった.柵状組織の細胞では液胞が物質により充填されていたため,葉緑体などの細胞小器官の細胞内分布を観察することは困難であった.しかし,海綿状組織の多くの細胞では液胞の存在が明瞭で,細胞壁に沿って配列する葉緑体や,時に核の断面が観察された.葉緑体内にはデンプン粒やチラコイドがみられた.従来のツバキの葉の光学顕微鏡観察に,SEMあるいは今回得られたようなSEM画像を活用する授業を提案する.