2014 年 55 巻 1 号 p. 40-47
新学習指導要領に基づく生物教育では,多くの高校生が履修する新科目「生物基礎」で「セントラルドグマ」の基本が扱われるようになった.しかしながら,肉眼で観察できない理論的な概念は理解することが難しく,とりわけ「セントラルドグマ」のしくみは複雑で動的なものであるため,学習者がイメージを構築することが困難で,理科を学習する多くの学生がDNAとRNAのはたらきを混同していることが報告されている.そこで本研究では,わが国において,高校生から大学生にかけて「複製」と「転写」の知識がどのように定着し,どのような誤理解が残るのか,またこれらのしくみがほんとうに混同されているかを解析することを目的として,旧課程で理科を学習してきた大学生に対する質問紙調査を行った.新入生に対する調査の結果,生物Ⅱ履修者のうち,「複製」・「転写」それぞれのしくみを正答した者は40%に過ぎなかった.また「複製」・ 「転写」の両方を正答した者は,生物n履修者の21.3%に留まった.大学1~3年生に対する調査の結果,「複製」を正答した者のうち,岡崎フラグメントを含め完全正答した者は1年生で33%, 2年生で46%, 3年生で75%と,学年が上がるにつれて割合が高くなった.一方「転写」については,どの学年とも正答した者と誤答した者が一定の割合で存在した.「転写]正答者の中での「複製」の正答率を学年順に調べたところ,学年が上がるにつれて完全正答する傾向が見られ,「複製」正答者の中での「転写」の正答率を学年順に調べたところ,学年に関係なく,どの学年とも正答と誤答を選んだ者が一定の割合で存在した.これらの結果から,「複製」と「転写」が一部で混同されていること,一方で「転写」をきちんと理解できていることが,「複製」の理解につながっていることが示唆された.新課程における教育では,「複製」と「転写」のうちとりわけ「転写」の理解に力を入れること,まずは「転写」の学習をきちんとした上で「複製」の学習をすることなど,「複製]・ 「転写]の混同を招かない新たな工夫を模索していくべきであろう.