生物教育
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研究論文
地衣類を用いた相利共生の実験教材
時澤 味佳竹下 俊治
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2014 年 55 巻 1 号 p. 33-39

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抄録

本研究では,地衣類の相利共生を確かめる実験教材の開発を行った.地衣類を構成する共生菌は有害な紫外線を吸収する成分を生成し,共生藻を保護しているといわれている.そこで,キウメノキゴケから紫外線を吸収する成分をエタノールにより抽出し,UVランプ,UVメータまたは無色の蛍光ペンを用いて,共生菌による紫外線の吸収を確認する実験を開発した.地衣類の共生藻と共生菌の関係は,共生藻が共生菌に光合成で生産した糖を提供し,その代わりに共生菌が共生藻に安定した生育環境を提供する「相利共生」といわれている.共生藻が共生菌に糖を与えていることは,光合成や生産者などの既存の知識から比較的理解しやすい一方で,腐生性や寄生性の生物として知られる菌類が共生藻に利益を与えていることは理解しがたいと考える.そこで,共生菌が共生藻に与える利益を確かめる実験教材が必要であると考えた.本研究では,共生菌が有害な紫外線から共生藻を保護していることに着目した.共生菌による紫外線の吸収は,共生菌が生成する二次代謝産物(地衣成分)によるものである.紫外線を吸収する地衣成分としてはウスニン酸やアトラノリンが代表的である.本研究材料のキウメノキゴケはウスニン酸を生成することが知られている.本研究ではまず,スペクトルメータを用いてキウメノキゴケのエタノール抽出液の光の吸収領域を測定した.その結果,抽出液が紫外領域の波長(300~375 nm)を選択的に吸収していることが分かった.また,培養実験を行いウスニン酸の紫外線吸収により共生藻が受ける紫外線の影響が減少することを確かめた.そして,安価で容易な実験としてUVランプ,UVメータまたは無色の蛍光ペンを用いた紫外線吸収の確認実験を開発した.地衣類の教材としての利点は,移動性や季節的消長がなく時期を問わず入手可能なことや,乾燥標本として長期間保存後でも地衣成分の抽出が可能であることである.本実験は,比較的安価で実験操作も容易であるため,学校現場で利用可能であると考える.

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© 2014 一般社団法人 日本生物教育学会
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