生物教育
Online ISSN : 2434-1916
Print ISSN : 0287-119X
研究論文
ユリ科,ヒガンバナ科,アヤメ科植物における花粉管内の雄原細胞の観察
―高校生物の重複受精に関する授業におけるキショウブ花粉の活用―
重野 奈津妃神山 貴達谷 友和小川 茂
著者情報
ジャーナル フリー

2016 年 57 巻 1 号 p. 13-19

詳細
抄録

花粉は被子植物の生殖において重要な役割を果たす.柱頭上で発芽した花粉は,花柱内に花粉管を伸ばす.花粉管を通じて二つの精細胞が胚嚢の助細胞に届けられ,重複受精が行われる.雄性配偶子である精細胞とその元となる雄原細胞は,無色透明であることが多く,通常は何らかの染色液を用いなければ,花粉管内でそれらの存在と動きを観察することはできない.ところが,ユリ科,ヒガンバナ科,およびアヤメ科に属するいくつかの植物では,有色の雄原細胞が見られることが知られている.本研究では,これらの科に属する20種の身近な植物を材料とし,通常の光学顕微鏡を用いた観察によって,雄原細胞の有色性と雄原細胞が花粉管内に出現するまでの時間を調べた.その結果,20種中9種において,雄原細胞が有色であることを確認し,そのうちナツズイセン,ヒガンバナ,キショウブ,ヒメヒオウギズイセンの4種において,雄原細胞の有色性が今回初めて明らかとなった.特に,アヤメ科のキショウブでは,花粉を寒天培地に散布してから1時間以内に,紡錘形で黄褐色をした雄原細胞が花粉管内に出現した.また,花粉管内での雄原細胞の動きを光学顕微鏡を用いて容易に観察可能であった.キショウブが身近な場所で比較的容易に入手可能な種であることも加味すると,本種は,被子植物の重複受精における花粉の役割を理解するための学習教材として優れていると考えられる.高等学校生物の「生殖と発生」の単元における,キショウブの花粉を教材として用いた授業の展開について考察する.

著者関連情報
© 2016 一般社団法人 日本生物教育学会
前の記事 次の記事
feedback
Top