生物教育
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研究資料
放射線の生物への影響を観察するための紫外線と大腸菌を用いた模擬実験系の改良
鵜澤 武俊小西 啓之木内 葉子森中 敏行原田 和雄高森 久樹中西 史
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2021 年 62 巻 2 号 p. 59-65

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抄録

現在の中学校学習指導要領においては,理科において新たに放射線の性質と利用に触れることになった.ところが以前の中学校学習指導要領では放射線についての扱いがなく,放射線教育に対応できる教員や教育プログラムが十分ではなかった.このため放射線教育に用いる教育プログラムの開発が新たに行われ,その一環として放射線の生物への影響を観察する教育プログラムが開発された.その一つとして放射線の代替として紫外線を使用し,大腸菌に紫外線を照射した後の生存率を観察する模擬実験系が開発された.この模擬実験系では無菌操作を回避するために抗生物質耐性を付与した組換え大腸菌を用いた.ところで組換え大腸菌はカルタヘナ法の規制を受けるため,この模擬実験を行える学校が限られるという制約が存在する.この制約を取り除くため,模擬実験系において非組換え体大腸菌を使用可能とするための条件検討を行った.微生物実験では通常,雑菌の混入を防ぐことが必要であるが,条件により雑菌を防ぐ必要のない微生物実験も知られている.本研究では,無菌操作を行わずにこの模擬実験を行う可能性を検討した.

そのため,最初に学校内の落下細菌の測定を行ない,5分間開放したシャーレでは,2日培養後に出現するコロニー数は10 cfu/シャーレより少なく,また培養時間の延長と共にコロニー数が増加することが示された.一方大腸菌は,1日培養後にコロニー数がほぼ最大に達したことから,大腸菌は大部分の雑菌より生育が速く,大腸菌のコロニー数測定には,培養時間は1日で十分であることが示された.次に,大腸菌を液体培養した後に,雑菌の混入を許す条件下で大腸菌をシャーレに塗布し,紫外線照射後の生存率を測定する実験を行った.その結果,シャーレに塗布する大腸菌の数を多くすれば,雑菌の混入を許しても,無菌操作を行った場合と同様な生存率のグラフが得られることが示された.

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© 2021 一般社団法人 日本生物教育学会
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