行動医学研究
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総説
主観的健康感と免疫系との関連についての系統的論文レビュー
中田 光紀
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2013 年 19 巻 2 号 p. 75-82

詳細
要 約

過去半世紀にわたる主観的健康感に関する研究から、主観的健康感は死亡率に対し独立した寄与因子であることが報告されている。しかし、その生物学的メカニズムについての研究は十分に発展してこなかった。本論文では、主観的健康感と免疫系との関連について、健康な日本人労働者を対象とした報告(第13回日本行動医学会荒記記念賞受賞論文)と併せて、これまでの研究について体系的に整理することを目的とした。PubMedによる文献検索を行った結果、最終的に15本の論文が抽出された。これらの論文をレビューした結果、様々な人種や集団において、主観的健康感が低い者は高い者に比べ各種炎症マーカー(インターロイキン-6、腫瘍壊死因子-α、C反応タンパク、総白血球数等)が増加し、液性免疫機能が活性化される可能性が示された。この関連は男性よりも女性で、若年者よりも高齢者でより明確であった。本レビューによって、主観的健康感の低さと各種疾患(特に、心血管疾患)による死亡危険度の増加には免疫系が介在する可能性が示唆されたが、これまでの研究のほとんどが横断研究であるため因果関係を支持するまでには至らなかった。今後、主観的健康感と疾病死亡危険度の関係において、免疫系が果たす役割を縦断研究により明らかにする必要がある。

問題と目的

過去半世紀にわたる主観的健康感に関する研究から、主観的健康感は死亡率や疾病罹患率に対し独立した寄与因子であることが報告されている1,2,3,4)。主観的健康感と死亡危険度に関する27本の論文レビューによると、主観的健康感は医師の診断などの客観的な健康度よりも強力に死亡率を予測することが明らかとなっている4)。その予測性は死亡率と関連するその他の多くの因子を統計学的に調整した上でも有意であることから、社会学、疫学、行動医学等の領域において急速に注目を浴びるようになった。また、注目を浴びた他の理由としては、質問が単純で答えやすく、調査票などにおいてもスペースを取らないなどが挙げられる。それ故に、米国では1972年以降の国民健康調査(National Health Interview Survey)で、日本では1986年以降の国民生活基礎調査で導入され、今日に至っている。代表的な質問方法は「あなたの現在の健康状態はいかがですか」で、回答形式は「よい」、「まあよい」、「ふつう」、「あまりよくない」、「よくない」の5段階であるが、4段階や3段階で尋ねる方法や、これらの回答をまとめて「良い」・「悪い」の2群に分ける方法もある。

このように様々な調査・研究で主観的健康感が健康のアウトカムとして用いられるようになったが、何故主観的健康感が有用な指標になりえたのか、という理由を説明する研究は十分に発展してこなかった。もし主観的健康感の死亡や罹病の予測性が優れているならば、当然何らかの生物学的メカニズムが存在することが想定される。21世紀に入り、医学・生物学・公衆衛生系の研究者がこの点に注目して、主観的健康感の生物学的メカニズムに関する研究が発展するようになった。これまでに様々な生物学的指標との関連が研究されてきたが、免疫指標を導入した研究は数が限られている。

そこで本稿では、主観的健康感と免疫系との関連を検討した文献の体系的レビューを行い、そのエビデンスを整理することを目的とした。さらにそれらの知見に基づいて今後の課題と将来展望に関する考察を行う。

方 法

文献の検索に当たっては、下記のキーワードをPubMedで検索(検索日:平成25年8月10日)した。その結果、265編の文献がヒットした。その中から、タイトルおよび要約から今回の目的に該当する文献12編に絞った。これらの文献中で、主観的健康感と免疫に関する研究として引用されていた論文3編を加え、計15編が最終的に抽出された。抽出の基準は、1)英文で書かれていること、2)主観的健康感に関係する変数を解析に含むもの、3)何らかの免疫指標を結果指標として解析しているもの、4)主観的健康感と免疫指標の関連を評価した調査研究であることとした。なお、研究本来の目的が主観的健康感と免疫系との関連の検討でなくても上記条件を満たすものはレビューの対象とした。

検索キーワード:(“self-rated health”[All Fields] OR “self-reported health”[All Fields] OR “perceived health”[All Fields] OR “general health status”[All Fields] OR “subjective health”[All Fields] OR “health perception”[All Fields] OR “self-assessed health”[All Fields] OR “self-evaluated health”[All Fields]) AND (“immune”[All Fields] OR “immunity”[All Fields] OR “leukocyte”[All Fields] OR “white blood cell”[All Fields] OR “lymphocyte”[All Fields] OR “natural killer cell”[All Fields] OR “helper T cell”[All Fields] OR “cytotoxic T cell”[All Fields] OR “CD4”[All Fields] OR “CD3”[All Fields] OR “CD8”[All Fields] OR “CD25”[All Fields] OR “CD27”[All Fields] OR “CD28”[All Fields] OR “immunoglobulin”[All Fields] OR “IgA"[All Fields] OR “IgG"[All Fields] OR “IgM”[All Fields] OR “cytokine”[All Fields] OR “interleukin”[All Fields] OR “tumor necrosis factor”[All Fields] OR “fibrinogen”[All Fields] OR “inflammation”[All Fields] OR “C Reactive Protein”[All Fields] OR “CRP”[All Fields])

結果と考察

主観的健康感と免疫系との関連を検討した原著論文15編を年代順にTable 1にまとめた。すべての論文で、主観的健康感は本人の全体的な健康状態(例;あなたの現在の健康状態はいかがですか)を尋ね、4あるいは5段階(非常に良い~非常によくない)で評価する回答形式であった。

Table 1. Association of self-rated health with immunologic indicators

SRH: self-rated health, M: men, F: women, BMI: body mass index, IL: interleukin, TNF: tumor necrosis factor, hs: high sensitive, CRP: C-reactive protein, LPK: leukocyte particle concentration, MIF: macrophage migration inhibitory factor, WBC: white cell blood count, N/A: not available.

主観的健康感と免疫系との関連を報告した初期の研究はCohenら(1997)によるものと言える5)。彼らは、米国の高齢(70–79歳)地域住民1,727名を対象に主観的健康感とインターロイキン(IL)-6との関連を検討した。その結果、主観的健康感の低さと血漿中のIL-6値の上昇が有意な関連を示した。また、IL-6は日常的動作活動や生活満足度とも関連し、日常動作活動の機能不全の度合いが高く、生活満足度が低いほどIL-6値が高いことを示した。しかし、この研究では年齢グループのみ交絡因子として調整したこと、また一つの炎症マーカーのみ測定したため、他の関連因子の影響を取り抜いても関連性が認められるのか、またその他の炎症マーカーでも同様な結果が得られるかどうかは不明である。

Fieldingら(2004)は、2,284名の中国人の成人男女(男性1,131名、女性1,151名)に対して主観的健康感に関する電話によるインタビューを行い、同時に血中のフィブリノーゲン値を測定した6)。主観的健康感は過去3ヵ月間の状況を4段階で尋ねたが、解析は主観的健康感の良し悪しで2群に分けた。性別、年齢、教育歴、婚姻状況、運動及び喫煙を調整した上で両者を比較したところ、主観的健康感が低い群は高い群に比べ、血中フィブリノーゲンの平均値はわずかに高い値を示したにすぎなかったが、基準値を上回る割合を比較したところ、主観的健康感が低い群で37%[OR 1.37; 95%信頼区間(CI) 1.002–1.84]高かった。

この研究では、主観的健康感に関して思い出しバイアス等を回避するために過去3ヵ月の状況に限定し、同時に中国という特有の集団的な文化圏においても主観的健康感の良し悪しと血中フィブリノーゲンが関連することを示した点に新奇性があると言える。

北欧の研究グループも主観的健康感とサイトカインの関連に関する一連の研究を報告している7,8,9,10)。Lekanderら(2004)は、265名(女性174名、男性91名)のプライマリーヘルスケア患者の主観的健康感と医師による健康度評価(身体健康度)の両者と各種サイトカイン[IL-1β、IL-1レセプターアンタゴニスト(ra)、IL-6、腫瘍壊死因子(TNF)-α]の関連を検討した7)。男女別に単相関を計算した結果、女性では主観的健康感の低さとIL-1β、IL-1ra及びTNF-αの増加が認められたが、男性では主観的健康感とサイトカインの関連は認められなかった。年齢、教育歴、身体健康度と現病歴を調整した上で解析を行った結果、女性では主観的健康感の低さとIL-1β(β=0.28, p<0.001)及びTNF-α(β=0.46, p<0.001)の増加に有意な関連が認められ、IL-1raに関しては有意傾向(β=0.13, p<0.10)のみ認められた。一方、男性は上記因子を考慮しても主観的健康感とサイトカインの関連は認められなかった。また、身体健康度とサイトカインの関連は、身体健康度が低い女性はIL-1βおよびIL-1raの増加が確認されたが(単相関)、多変量解析の結果IL-1raのみ身体健康度と有意な関連を示した。

この論文の著者らは、以上の結果から、医師による客観的な健康度評価よりも患者自身の主観的健康感の方がサイトカインとの関連が強固であると結論づけている。また、男女で異なった結果が得られた理由として、そもそも健康感の評価方法が男女で異なるのが原因ではないかと考えた。例えば、女性は主観的健康感の良し悪しを、痛みなどの症状や精神・身体症状など様々な角度から総合的に判断するのに対し、男性は何らかの身体的な機能障害や疾患の有無で判断する傾向があり11)、そのためにこのような差が生じると考察している。

続いてUndenら(2007)は、上記のデータを用いて主観的健康感とサイトカインの関連について、女性患者に限定し年齢別に解析を行った8)。著者らは、被験者を18–49歳、50–64歳、65歳以上の3つの年齢群に分け、主観的健康感とIL-1β、IL-1ra、IL-6及びTNF-αの関連を解析したところ、18–49歳と50–64歳の群では主観的健康感とTNF-αの相関係数がそれぞれr=0.32(p<0.05)r=0.45(p<0.01)であったのに対し、65歳以上の群ではr=0.55(p<0.001)とより強い相関を示した。また、18–49歳と50–64歳の群では主観的健康感とIL-1β、IL-1raとIL-6の関連は認められなかったが、65歳以上の群では主観的健康感とIL-1β及びIL-1raに関連が認められたことから、主観的健康感とこれらサイトカインの関連は年齢とともに強まるものと考えた。なお、高齢者で主観的健康感とTNF-αに強い関連が観察されたことはサイトカインによって誘導された一連の疾病反応(倦怠感、無気力感、無関心、眠気、頭痛、食欲減退等)によって主観的健康感が低く評価されたのではないかと推察された。

Janszkyら(2005)は、女性冠動脈疾患(急性心筋梗塞、経皮的腔内血管形成術あるいは冠動脈バイパス手術を受けた者)患者231名の主観的健康感、うつ症状、活力消耗(vital exhaustion)とC反応タンパク(CRP)、IL-6およびIL-1raの関連を多変量解析によって解析した9)。その結果、主観的健康感(β=0.24, p=0.004)と活力消耗(β=0.21, p=0.02)がIL-6と有意な関連があることが認められた。うつ症状はいずれの炎症マーカーとも関連が認められなかった。この結果から、著者らは冠動脈疾患患者では、うつ症状よりも主観的健康感の低下や活力消耗の増大の方が疾病反応と関連が強く、IL-6の増加と関連したと考察した。

以上、主観的健康感と炎症マーカーの関連について北欧の3つの論文7,8,9)を紹介したが、これら一連の研究はあくまでも“免疫系が潜在的に関連する何らかの症状あるいは疾患”を持つ患者集団を対象とした研究結果であり、症状や疾患の重症度が主観的健康感とサイトカインの関連を交絡する可能性を否定できない。また、様々な炎症マーカーが主観的健康感と関連することが示されたが、どのマーカーが最も関連が強く、それがどの様な役割を果たしているのか、結果が必ずしも一貫しないため解釈には注意を要する。

この研究グループは、最近新たに健康な集団を対象に主観的健康感とサイトカインの関連について報告した。Andreassonら(2013)は、45–90歳の女性地域住民347名の主観的健康感、肯定感情、否定感情について調査し、同時に5種類の異なる炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-1ra、sIL-rII、sIL-2、及びIL-6)を測定した10)。肯定・否定感情はうつ病自己評価尺度(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale; CES-D)で評価した。肯定感情の測定はCES-Dに含まれる4つの肯定感情項目を用い、同様に否定感情は7つの否定感情項目を用いて測定した。主観的健康感を良し悪しの2つの群に分けて比較検討した結果、主観的健康感が低い群は高い群に比べIL-6のみ有意に高値を示し(年齢、BMI、薬物使用の有無と喫煙を調整済)、その関係は特に65歳以上で顕著であることが判明した。また、主観的健康感の良し悪しを決定づける因子として、IL-6の上昇のほかに肯定感情の得点が低いことが重要であることを示した。

これまでの研究は患者集団や地域住民が主な対象であったが、“勤労者”を対象とした前向き研究も実施されている。Hassonら(2006)は、260名のIT関連労働者を対象にベースライン、6ヵ月後と1年後の主観的健康感と炎症マーカー(sIL-1β、sTNF-α、s-CRP、B-LPK等)を測定し、炎症マーカーが将来の主観的健康感を予測しうるどうかを検討した12)。その結果、ベースラインでは主観的健康感とs-CRPが関連することが示されたが、炎症マーカーは1年後の主観的健康感の高低を予想しないという結果であった。1年後の主観的健康感を予測する他の因子として自己肯定感、社会的支援、睡眠の質ならびに首尾一貫感覚が有意であることを報告している。なお、ベースラインの主観的健康感が1年後の炎症マーカーの高低を予測するかどうかについては記載されていなかった。

Jylhaら(2006)は、71歳以上の米国人高齢者4,065名(男性1,437名、女性2,598名)を対象に約5年間の追跡調査を実施し、主観的健康感と血液バイオマーカー(総白血球数、ヘモグロビン、アルブミン、高密度リポ蛋白コレステロール、クレアチニン)ならびに死亡率との関連を検討した13)。その結果、ベースラインにおいて主観的健康感が悪いほど総白血球数、ヘモグロビン、アルブミン、高密度リポ蛋白コレステロール、クレアチニンの値が増加し、5年後の死亡率も主観的健康感が悪いほど高かった。この関係は社会経済因子、生活習慣、既往歴および血液バイオマーカーを調整した上でも一貫することが確認された。この研究は、大規模な参加者において主観的健康感の低下が血液バイオマーカーと関連し、さらに死亡危険度の増加とも関連することを試みた最初の研究と言える。

Haseli-Mashhadiら(2009)は、中国の都市部(上海、北京)の地域住民3,289名(男性1,458名、女性1,831名)を対象に、主観的健康感とIL-6とCRPを含む15種類の血液バイオマーカーとの関連を検討した14)。主観的健康感が低いほどIL-6とCRPを含むほぼすべての血液バイオマーカーの増加が観察された。主観的健康感と強く関連するその他の因子として、都市部よりも農村地区に居住すること、睡眠の質の良さ、抑うつ症状の低さ、循環器疾患の既往歴がないことなどが挙げられた。

Nakataら(2010)は、健康で若いホワイトカラー労働者116名(男性37名、女性79名)を対象に横断調査を実施し、主観的健康感と免疫指標との関連を検討した15)。この研究では、健康感の高低によって免疫系のどの指標が最も関連するか幅広く検討するために炎症マーカー(IL-6及びTNF-α)に加えてリンパ球サブセット(T、B及びNK細胞数)と免疫グロブリンG値を測定した。さらに、対象を健康で現病歴がない労働者とすることにより、疾患の有無による免疫指標や主観的健康感への影響を最小限にした。このような条件の下で解析を行った結果、主観的健康感の低さはB細胞数(β=0.260, p=0.038)とIgG値(β=0.335, p=0.007)の増加と関連することが判明した。その他のリンパ球サブセットや炎症マーカーと主観的健康感は特に関連が認められなかった。また、主観的健康感の低さに影響する主要な因子としてうつ症状が関連することが明らかとなった。この結果から、健康で比較的均質な労働集団では、主観的健康感の低さによって炎症マーカーではなく、むしろ液性免疫系の活性化が進行すると推察した。液性免疫系の活性化はヘルペスウイルス等の潜伏感染ウイルスの再活性化とも関連するかもしれない。

Dowdら(2010)は、13,877名(男性6,730名、女性7,147名)の米国人代表サンプルを用いて社会経済的水準(ここでは学歴)が主観的健康感と血液バイオマーカーの関連を修飾しうるのかという仮説を検証した16)。血液バイオマーカーは総白血球数、CRP及びフィブリノーゲンを含む14種類が測定され、解析は男女別に行われた。その結果、男女共に主観的健康感が低いほど総白血球数、CRP及びフィブリノーゲン値が増加することが判明したが、この関連は学歴が高い集団においてより明確であった。この結果について著者らは、学歴が高いと様々な情報に基づいて自分の健康状態を比較的正確に把握できるが、逆に学歴が低いと主観的健康感の高低の判断を同じ社会経済的水準の者と比較する可能性があるため、健康状態が悪くても健康感を高めに評価し、その結果学歴が低い集団では主観的健康感と血液バイオマーカーの関連が弱まるのではないかと推察した。学歴の高低別に健康感が同じ水準の者同士を比較した結果、学歴が低いほど血液バイオマーカーの結果が好ましくない値を示すことが判明し、社会経済的水準の高低によって主観的健康感の評価の仕方も異なる可能性があることを示した。

Christianら(2011)は、米国人高齢者250名(男性65名、女性185名)を対象に、主観的健康感と2種類の炎症マーカー(IL-6とCRP)の関連を検討した17)。この研究では、年齢、性別、BMI、現病歴、うつ症状に加えて、過去1年間の主観的健康感の変化についても解析で考慮した。その結果、主観的健康感が低いほどIL-6 (β=0.26, p<0.001)及びCRP (β=0.12, p<0.05)値が増加することを報告した。過去1年間の主観的健康感の評価の変化とIL-6及びCRPの関連は特に認められなかった。

Tannoら(2012)は、岩手県北地域の住民16,256名(男性5,142名、女性11,114名)を対象に主観的健康感と血中CRPに関するコホート調査を実施した18)。主観的健康感を良好と不良の2群に分けるとともにCRP値をカットオフポイント1 mg/L以上・未満で分け、多重ロジスティック回帰分析により主観的健康感の良し悪しに対する高CRPのリスクを計算した。男女別に解析した結果、女性では、主観的健康感が悪い群では良い群に比べCRPのカットオフポイント以上の者が66%(OR 1.66; 95%CI 1.36–2.02)高く、男性では33%(OR 1.33; 95%CI 1.01–1.76)高かった(年齢調整済)。しかし、この結果は社会経済的因子、生活習慣、複数の循環器系バイオマーカーを調整した後では、女性では44%(OR 1.44; 95%CI 1.16–1.78)に減少し、男性で1%(OR 1.01; 95%CI 0.75–1.36)にまで減少した。著者らは交絡因子調整後に男性で関連が認められなくなった理由として、男性は血中CRP値を上昇させるその他の危険因子すなわち喫煙、高血圧、糖尿病などの割合が女性のそれよりも多いことが原因であると推察した。

Saudnyら(2012)は、カナダに在住するイヌイット族2,595名(男性998名、女性1,597名)を対象に、主観的健康感の低さを決定づける因子についての疫学調査を行った19)。血液バイオマーカーはCRP値および空腹時血糖値を測定した。その結果、独身であること、喫煙者であること、過体重であること、腹囲が大きいこと、空腹時血糖値が高いことおよびCRP値が3 mg/Lより大きいことが、主観的健康感を低める危険因子であることが明らかとなった。この研究にはカナダ在住のイヌイット族のうち約20%が研究に参加したことから、カナダ在住のイヌイット族においては代表性が高い研究結果であると言えよう。

Christianら(in press)は、免疫機能が低下する妊娠中期の女性101名を対象に主観的健康感の関連因子を明らかにするとともに、主観的健康感と炎症マーカー(高感度CRP、IL-6、TNF-α、IL-1β、マクロファージ遊走阻止因子 [MIF])の関連を検討した20)。妊娠中に体内で炎症反応が亢進すると、子宮頸管熟化、絨毛膜の弱体化などが起こり、結果的に早産が引き起こされやすいことから、炎症反応の亢進は母体と胎児の両者にとって危険因子となる。論文の著者らは、主観的健康感の低さが炎症マーカーの亢進と関連するのであれば、妊婦の健康感を把握することは早産を予防する上で役に立つのではないかと考えた。この仮説に基づき解析を行った結果、主観的健康感の低さを構成する因子として、日常的に高いストレス(抑うつ症状、主観的ストレス、妊娠に伴う各種の症状)を経験していること、現病歴があること、肥満であることおよび過去に喫煙歴があることが重要であることが判明した。また、主観的健康感はIL-1β(r=−0.23, p=0.02)と有意に関連し、MIF(r=−0.19, p=0.055)と有意傾向が観察されたことから、妊婦における健康感の把握は母子の健康にとって重要であると結論された。

今後の課題と展望

本レビューは、主観的健康感と免疫指標の関連について、これまでの研究を整理・概観した。その結果、主観的健康感の低さと各種疾患による死亡危険度の増加には免疫系が介在する可能性があることが示唆された。しかし、これまでの研究のほとんどが横断研究であるため因果関係は明確にならなかった。

この領域における今後の課題と将来展望は以下に集約できる。

一つめは、主観的健康感の測定は、自分の健康状態を全般的に評価させる方法が一般的であるが、その他にも他の同年代と比較する方法、過去の自分の状態と比較する方法、健康に対する満足度などを測定する方法があり、免疫系との関連においてどのように関連が異なるのか、今後新たな研究が必要である。また、測定方法に関して、研究間で微妙に文言が異なるので、その影響についても解釈を慎重に行う必要がある。さらに、測定期間すなわち過去のどの期間の健康感を尋ねているのか、今現在のことを尋ねているのか、あるいは過去3ヵ月間や過去1年間までも含むのか、それによって回答者は自分の健康感を異なって評価するかもしれない。

二つめは、疾患を有する者とそうでない者では、主観的健康感の捉え方が異なる可能性がある。症状や疾患を有するから健康感を低く評価するのか、逆に健康で何か特定の症状や疾患がないから健康感を高く評価するのか、性差との関連も踏まえてより詳細な検討がなされる必要がある。

三つめは、主観的健康感と疾病死亡危険度の関係において、免疫系が果たす役割を縦断研究により明らかにする必要がある。それにより因果関係がより明確になり、どの時点の健康感が免疫機能と関連し、疾患の発症や死亡と関連するかを示すことが可能になるかもしれない。

これらの課題を踏まえて、今後新たな研究成果が生み出されることが期待される。

文 献
 
© 2013 日本行動医学会
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