行動医学研究
Online ISSN : 2188-0085
Print ISSN : 1341-6790
ISSN-L : 1341-6790
症例報告
内科診療所での糖尿病腎症患者に対する行動医学チーム医療に臨床心理士を加える試み
中村 菜々子 多木 純子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2015 年 21 巻 1 号 p. 31-38

詳細
要約

透析導入前の糖尿病腎症に対する行動医学に基づくチームによる介入は重要であるが、総合病院と比較して糖尿病を専門とする内科診療所で実施することは難しい。我々は、内科診療所に通院する糖尿病腎症患者に対し、10ヵ月にわたって、多職種による治療を行った。この治療では、管理栄養士による指導と臨床心理士による心理面接が含まれていた。内科診療所に通院中の糖尿病腎症患者10名(平均年齢67.4歳)が治療に参加した。2012年7月から10ヵ月間、管理栄養士の個別・集団指導と認知行動療法を専門とする臨床心理士の個別面接を実施した。栄養指導と心理面接は、月1回の再診の際に実施した。これらに加え、臨床心理士はスタッフの関わり方をアセスメントし、スタッフへコンサルテーションを行った。併せて得られた情報を元に、医師とコメデイカルで合同カンファレンスを開催した。介入から5ヵ月後にe-GFRが有意に改善した(p = .05)。尿酸(p = .02)と総コレステロール(p = .02)は10カ月後に有意に減少した。また、カリウム摂取制限(p = .01)、他患者との会話(p = .03)、栄養指導を守る自信(p = .03)、不快な症状(p = .002)や病気に伴うストレス緩和の自信(p = .09)、腎症の自覚症状(p = .08)が有意に増加した。内科診療所は時間やその他のリソースが限られているが、そのような条件の下でも、糖尿病腎症への行動医学アプローチを行うことの有効性が示唆された。

緒 言

糖尿病腎症は人工透析導入の原因となる疾患として1998年以降第1位を占めており、その割合は増加を続けている1)。人工透析は、患者本人の身体・心理社会的な負担、ならびに医療費全体に対する負担が増大することから2)、現在、国内外で糖尿病患者の腎症発症の一次・二次予防は極めて重要な課題となっている3,4)

各種の腎疾患による腎機能の低下は、慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)と呼ばれる。CKDは重症度によって1~5期の病期(CKDステージ)に分けられ、ステージ毎に必要な治療や生活習慣の改善目標が提案されている1)。治療の場としては、CKDステージ1~2は、基本的にはプライマリケア医で治療を続け、ステージ3から、プライマリケア医から腎臓専門医へと徐々に指導主体が変わることが推奨される病期となる。しかし腎臓専門医数の不足もあり、ステージ3の患者の多くが一般内科に通院しているのが現状であり、腎臓専門医だけでなくプライマリケア医やコメディカルスタッフが生活習慣の指導を含む腎症進展予防アプローチを行うことが推奨されている5)

我が国では、平成24年4月より糖尿病透析予防指導管理料が診療報酬に新設されたことから、施設基準を満たす病院では糖尿病患者への腎症発症・進展予防アプローチは現在拡大しつつある6)。一方で、診療所における腎症への対応は遅れている。糖尿病専門クリニックに通院する2型糖尿病患者288名の腎機能を評価した研究では7)、108名(38%)がCKDステージ3であった。一方、内科を標榜する165医療機関を対象にした糖尿病腎症への対応に関する現況調査8)では、回答のあった27施設(診療所23、病院4)のうち、糖尿病腎症プログラムを持つのは1施設のみであった。これらの現状より、今後内科診療所において腎症予防へのアプローチを行うことが重要になると考えられる。

今回我々は糖尿病を専門とする内科診療所で、行動医学による介入を経験した。本症例報告では、診療所に通院する2型糖尿病による糖尿病腎症患者で、糖尿病のコントロールが比較的良好と思われる者に対し、従来からの糖尿病に関する薬物療法を変更することなく、管理栄養士の指導と臨床心理士の面接を加えることで、腎機能悪化を抑制できるか検討した。本稿ではこの取り組みを臨床心理士である第1筆者が報告する。

方 法

1.症例

Table 1

2型糖尿病により内科診療所に通院加療中の、糖尿病腎症患者10名が参加した。糖尿病腎症は2012年1~6月の3回の検査結果を用い、診断基準9)に従って診断した。参加基準は登録時(2012年4~6月)に、①CKDステージが3[推算糸球体濾過量(estimated- Glomerular Filtration Rate; e-GFR):30~59 ml/分/1.73 m2]、②抑うつ症状[日本語版自己評価式抑うつ尺度10)(20項目4件法、得点範囲:20~80、得点が高いほど抑うつ症状が強い)]および不安症状[STAI状態・特性不安検査11)(状態不安20項目、特性不安20項目、4件法、各得点範囲:20~80、得点が高いほど不安症状が強い)]が重症ではない、③糖尿病のコントロールが比較的良好の3点全てを満たす患者に協力依頼を行った。なお参加者のうち2名は、参加登録時にはe-GFRが30以上であったが、介入開始時に30未満であった。

倫理的配慮から、本人に、主治医より介入の目的、参加は自由意思であること、中断による不利益がないことなどを文書および口頭で十分に説明した上で、承諾書へ参加者本人の署名を得た。さらに個人が同定できないように内容の記述に配慮した。

Table 1. Clinical profiles of the patients (N = 10)
Patient Age [years] Gender SDS STAI-T STAI-S BMI [kg/m2] HbA1c (NGSP) [%] e-GFR [mL/min/1.73m2] Albumin [g/dL] SBP [mmHg] DBP [mmHg] Treatment of diabetes
A 65 M 31 32 31 21.9 6.9 27.1 5.6 94 56 Antidiabetic agent
B 78 F 27 24 30 29.6 7.1 29.1 7.0 114 50 Antidiabetic agent
C 73 M 32 42 32 26.6 7.7 39.8 6.3 130 70 Antidiabetic agent
D 69 M 48 47 43 25.4 6.9 41.4 5.4 128 68 Antidiabetic agent; Insulin injection
E 70 M 37 30 30 28.1 5.9 45.3 7.7 132 80 Diet and exercise therapy
F 57 M 39 48 45 23.7 6.5 48.7 8.7 150 90 Antidiabetic agent
G 55 F 44 50 47 33.8 6.8 54.2 6.5 170 90 Antidiabetic agent
H 63 M 24 33 32 28.0 5.4 54.3 8.9 120 60 Diet and exercise therapy
I 72 M 48 49 46 22.7 6.7 54.5 6.4 130 70 Antidiabetic agent
J 72 F 35 32 27 32.5 6.4 59.3 6.6 132 60 Antidiabetic agent
Mean (SD) or N 67.4 (7.3) M:7 F:3 36.7 (8.4) 38.7 (9.5) 36.3 (7.9) 27.2 (4.0) 6.6 (0.64) 45.4 (9.4) 6.9 (1.2) 130.0 (20.2) 69.4 (13.7) Diet and exercise therapy: 2
Antidiabetic agent: 8
Insulin injection: 1

SDS, Self-rating Depression Scale; STAI-T, State-Trait Anxiety Inventory-Trait scale; STAI-S, State-Trait Anxiety Inventory-State scale; BMI, body mass index; e-GFR, estimated glomerular filtration rate; SBP, systolic blood pressure; DBP, diastolic blood pressure; M, male; F, female; SD, standard deviation.

2.施設背景と介入の概要

施設背景は、医師(糖尿病専門医)1名、看護師6名、管理栄養士2名(月1回の非常勤勤務、内1名は日本糖尿病療養指導士)、臨床検査技師1名(日本糖尿病療養指導士)であった。この施設に今回、認知行動療法を専門とする臨床心理士1名が加わった。医師が臨床心理士の導入を決めた背景は2点あった。第1に、糖尿病に関連した生活習慣のコントロールを比較的良好に保ってきた患者に、腎機能が低下したという事実を伝えることでショックを受けると考えられたため、それを臨床心理士の面接によって緩和しつつ、腎機能低下に対応した新しい生活を獲得してほしいと考えたことによる。第2に、診療所のスタッフによる患者支援方法について、認知行動療法による視点から整理し、行動医学の実践を深めることであった。

介入の概要は以下のとおりである。実施期間は、2012年7月~2013年4月(10ヵ月)、であった。月1回の再診の際に、①管理栄養士の指導、②臨床心理士の面接を行い、③合同カンファレンスを期間中計4回開催した。1日に実施可能な個別面談数が限られているため、参加者を2群に分け、栄養指導実施月と心理面接実施月を交互に組み合わせた(Table 2)。

Table 2. Schedules of interventions
Month 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
Patients A~E N P N P N
Patients F~J N P N P N

N, individual or group education provided by registered dietitian; P, individual counseling provided by clinical psychologist.

3.介入内容の実際

3-1.管理栄養士による介入

管理栄養士による介入は、個人指導とグループ指導を組み合わせ、合計3回実施された。糖尿病の栄養指導はプログラム以前からの指導が継続して行われ、これに腎臓病の栄養指導12,13,14)が追加された。主な指導方針は、低蛋白米を導入し主食の蛋白質を削減することと(低蛋白米利用以外の蛋白質摂取制限法および削減目標量は患者別に設定)、カリウムを減らす方法の指導(野菜をゆでる、その理由の説明)であった。塩分摂取制限については、本プログラム以前から指導していた内容を継続した。

これらの介入は臨床心理士から見ると、個別指導は「段階的なタスクの設定(少ない目標数、難易度の低い目標を1つずつ実施する)」、「方法の教示」および「具体的な目標の設定(すべきことが明確)」であり、集団指導の内容は「モデル提示」、「他者と比較する場の提供」、「患者自身が誰かのモデルになる」といった行動変容技法であると考えられた(Table 315)。栄養指導で自然と行われていたこれらの効果的な行動変容技法を整理し、合同カンファレンスで解説を加え、肯定的にフィードバックした。

Table 3. Behavior change techniques contributing to effectiveness across interventions (Abraham et al., 2008)
Techniques
1. Provide information about the behavior-health link.
2. Provide information about consequences.
3. Provide information about others’ approval.
4. Prompt intention formation.
5. Prompt barrier identification.
6. Provide general encouragement.
7. Set graded tasks.
8. Provide instruction.
9. Model or demonstrate the behavior.
10. Prompt specific goal setting.
11. Prompt review of behavioral goals.
12. Prompt self-monitoring of the behavior.
13. Provide feedback on performance.
14. Provide contingent rewards.
15. Teach how to use prompts or cues.
16. Agree on behavioral contract.
17. Prompt practice.
18. Use follow-up prompts.
19. Provide opportunities for social comparison.
20. Plan social support or social change.
21. Prompt identification as a role model.
22. Prompt self-talk.
23. Relapse prevention.
24. Stress management.
25. Motivational interviewing.
26. Time management.

3-2.臨床心理士による介入

臨床心理士は、診療所という環境が、随伴性のコントロール(患者に対して強化を与えるような環境設定)において重要となると考え、診療所のアセスメントを行った。本症例の介入が行われた診療所は、臨床心理士の導入前から、日々の実践で自然と行動医学的な関わりが行われており、かつ高い水準にあったため、心理介入は、診療所ですでに行われている良い取り組みを発見・整理し、支持する方針とした。

具体的には、診療所内の雰囲気が明るく、看護師や臨床検査技師が患者によく声かけを行っていた。また、カンファレンスの際に各患者の性格や行動特徴について具体的な観察に基づく内容が報告され、各スタッフが患者に積極的に関わり、よく観察し生活等を把握していることが伺われた。この背景には、主治医によって作成された初診時の問診票の存在があった。問診票は基礎情報に加え、家族歴、現在の食生活、運動習慣などを広く把握できるようになっている。この問診票を用いて日本糖尿病療養指導士が30分以上かけて問診を行うことで、各患者の生活面を含めた情報を把握できるように工夫されていた。こうした行動医学的なアセスメントが、臨床心理士導入以前にすでに実施されていた。さらに、食事と血糖値の関連について理解が不十分である患者には、言葉で説明することに加え、受診時に血糖値の検査結果を即時にフィードバックすることによって(通常、検査結果は次回受診時に患者へ伝えている)、来院前の食事内容と血糖値の関連を患者が理解できるよう工夫していた。

各患者に対しては、30分間の個別心理面接を、1人あたり2回実施した。臨床心理士は事前に各患者の今までの指導記録に目を通し、各患者なりの成功体験(体重減少、体重を増やさずに維持、体調の良い変化等)を把握してから面接に臨んだ。また、管理栄養士による介入が先述の通り良い行動変容となっていること、および2回と限られた回数であることから、効果が認められた行動変容の全要素(Table 3)を網羅した介入を目指すことは非現実的であると考えられた。そこで、糖尿病治療や栄養指導に関する患者の知識と経験を整理して現実的に実施可能な行動を整理・共有すること、および自己効力感と動機づけを高めること16)を中心とした面接内容とした。

第1回面接では、自己紹介を行い本面接の目的を伝えた。初診時から現在までのセルフケアを振り返り、患者なりの工夫や現在までの成功体験(改善、または悪化させずに維持できた経験)を発見し強化した。次に、「腎臓が悪い」ことの受け止め方を傾聴し、不安が強い場合は支援した。さらに生活背景の情報収集を行いながら、医師・管理栄養士による指導の理解度を確認した。必要に応じ、生活上のストレスを整理し、行い得る対処行動を患者から引き出し整理した。

第2回面接では、第1回に引き続き各患者なりの工夫を整理し、動機づけの強化を行った。また医師・管理栄養士の指導の理解度を確認した。加えて、「糖尿病」や「腎臓が悪い」ことへの態度、知識、今後の見通し、思いを聞き、整理した。第1回で腎症の診断に不安を感じていた患者については引き続き支援を行った。

個別面接の結果は、合同カンファレンスで報告した。カンファレンスでは、各参加者についてスタッフの気づきを共有し、臨床心理士の情報と照合した。その上で、患者の理解度に合わせた情報提供と、腎機能低下に対する不安が強い患者への対応について方針を整理した。臨床心理士は適宜、スタッフの良い関わりを発見して積極的にフィードバックし、スタッフ自身の自己効力感を高めることを心がけた。

4.評価指標

4-1.介入仮説と測定指標

介入によって、ターゲットとしたセルフケア行動(カリウム摂取、蛋白質摂取量の減少)が改善し、その結果として腎機能の悪化が抑制されると考えられた。そこで、セルフケア行動実施に関する主観評定と生化学指標を測定した。また心理士の介入により、セルフケアやストレス対処に対する自己効力感が増加すると考えられたので、これらについて主観評定を行った。

4-2.属性と医学的情報

属性および生化学検査結果等の医学的情報については、介入開始時、5ヵ月後、10ヵ月後の情報について、本稿の第2筆者である医師がカルテより情報を収集した。

4-3.行動・心理指標

行動・心理指標は介入前と10ヵ月後に測定した。

糖尿病と腎臓病の自覚症状を感じる程度について、それぞれ11段階(0:全く感じない~100:とても感じる)で尋ねた。

セルフケア行動は、透析患者のセルフケア行動に関する先行研究17)を参考に、塩分摂取、水分摂取、カリウム摂取、リン摂取、服薬の項目を作成し、併せて情報収集、他患者との交流に関して測定した(4件法、1:していない~4:している)。蛋白質摂取は、管理栄養士が食事記録を基に算定した蛋白質摂取量を分析に用いた。

自己効力感については、がん患者の自己効力感測定に関する先行研究18)の測定方法を参照し、栄養指導、糖尿病および腎臓病のセルフケア、そして心理面接によって改善すると考えられた、ストレス管理3項目(「不快な症状があったとしても、日常生活をそれなりにこなすことができる」、「病気にともなうストレスをやわらげることができる」、「自分の感情のコントロールができる」)について11段階(0:全く自信がない~100:完全に自信がある)で尋ねた。

5.分析

日本語版SPSS ver.19を使用し、各指標について、被験者および各時点の体重を変量効果、測定時点を固定効果とする線型混合モデルをあてはめ、経時的変化を検討した。各時点の平均値の差はBonferroniの多重比較を用いて比較した(結果の表記方法は先行研究19, 20)を参考にした)。なお、有意水準は10%に設定した。

結 果

1.生化学データの変化

Table 4, Fig. 1)

介入の結果、血圧、血糖値、総蛋白、中性脂肪に有意な変化はなかった。e-GFR(p = .05)は5ヵ月後、尿酸値(p = .02)と総コレステロール値(p = .02)とは10ヵ月後において、それぞれ介入前より、10%未満で有意に改善した(カッコ内は有意であった下位検定のp値)。

Table 4. Estimated marginal means, standard errors and F values from linear mixed models in relation to clinical parameters over time (N = 10)
Time e-Mean SE (95% CI) F value Post-hoc comparison
e-GFR [mL/min/1.73m2] BL 45.37 3.39 (37.84–52.86) F (2, 18.00) = 3.67* BL < 5M+
5 M 49.59 3.39 (42.10–57.08)
10 M 49.11 3.39 (41.62–56.60)
Uric acid [mg/dL] BL 6.91 0.37 (6.13–7.69) F (2, 16.98) = 5.26* BL > 10M*,5M > 10M+
5 M 6.73 0.38 (5.92–7.53)
10 M 5.77 0.37 (4.99–6.55)
Total protein [mg/dL] BL 7.00 0.22 (6.51–7.49) F (2, 18.00) = 0.90
5 M 7.11 0.22 (6.62–7.60)
10 M 7.15 0.22 (6.66–7.64)
Total cholesterol [mg/dL] BL 193.70 8.72 (175.12–212.28) F (2, 18.00) = 4.54* BL > 10M*
5 M 180.30 8.72 (161.72–198.88)
10 M 171.10 8.72 (152.52–189.68)
LDL cholesterol [mg/dL] BL 108.75 9.34 (88.42–129.09) F (2, 16.13) = 3.21+
5 M 94.97 9.34 (74.64–115.31)
10 M 96.30 9.16 (76.21–116.39)
HDL cholesterol [mg/dL] BL 53.40 4.03 (44.66–62.14) F (2, 18.00) = 1.04
5 M 53.10 4.03 (44.38–61.84)
10 M 48.80 4.03 (41.06–58.54)
Triglyceride [mg/dL] BL 173.50 49.27 (67.89–279.11) F (2, 18.00) = 1.27
5 M 184.50 49.27 (78.89–290.11)
10 M 125.00 49.27 (19.39–230.61)
HbA1c [%] BL 6.63 0.17 (6.27–6.99) F (2, 18.00) = 0.81
5 M 6.47 0.17 (6.11–6.83)
10 M 6.65 0.17 (6.29–7.01)
FBG [mg/dL] BL 107.10 6.03 (94.44–119.76) F (2, 16.78) = 0.02
5 M 106.12 6.26 (93.04–119.20)
10 M 106.21 6.26 (93.13–119.29)
SBP [mmHg] BL 130.00 5.32 (118.77–141.23) F (2, 18.00) = 1.57
5 M 137.20 5.32 (125.97–148.43)
10 M 138.20 5.32 (126.97–149.43)
DBP [mmHg] BL 69.20 3.59 (61.84–76.96) F (2, 18.00) = 0.19
5 M 71.00 3.59 (63.44–78.56)
10 M 71.40 3.59 (63.84–78.97)
Body mass index [kg/m2] BL 27.23 1.31 (24.28–30.18) F (2, 18.00) = 0.51
5 M 27.09 1.31 (24.14–30.04)
10 M 27.11 1.31 (24.16–30.06)

BL, baseline; 5M, 5 months; 10M, 10 months; e-Mean, estimated marginal mean; SE, standard error; CI, confidence interval; e-GFR, estimated glomerular filtration rate; FBG, fasting blood glucose; SBP, systolic blood pressure; DBP, diastolic blood pressure; + p<.10, * p<.05.

Fig. 1.

Longitudinal changes in individual patients in relation to e-GFR, uric acid, and total cholesterol levels.

2.心理・行動指標の変化

Table 5

介入の結果、食事記録より算出した体重1 kgあたりの蛋白質摂取量は減少していたもののその変化は有意ではなかった(p = .28)。カリウムを含む食品の摂取制限(p = .01)、他の患者との会話(p = .03)、栄養指導の指示や目標を守る自信(p = .03)、不快な症状があっても日常生活をそれなりにこなす自信(p = .002)、病気に伴うストレス緩和の自信(p = .09)、腎症の自覚症状(p = .08)がそれぞれ10%未満で有意に増加した。

Table 5. Estimated marginal means, standard errors and F values from linear mixed models in relation to behavioral parameters over time (N = 10)
Items : Score range Time e-Mean SE (95% CI) F value
Estimated dietary protein intake [g/kg body weight/day] BL 0.91 0.06 (0.78–1.04) F (1, 7.68) = 0.91
10 M 0.84 0.06 (0.72–0.98)
Avoidance of excessive fluid intake : 1–4 BL 2.20 0.33 (1.49–2.91) F (1, 9) = 0.08
10 M 2.30 0.33 (1.59–3.01)
Avoidance of excessive salt intake : 1–4 BL 3.70 0.16 (3.35–4.05) F (1, 9) = 1.00
10 M 3.60 0.16 (3.25–3.95)
Avoidance of excessive potassium-rich food intake : 1–4 BL 2.10 0.29 (1.49–2.71) F (1, 9) = 9.53*
10 M 3.30 0.29 (2.69–3.91)
Avoidance of excessive phosphorus-rich food intake : 1–4 BL 2.10 0.31 (1.44–2.76) F (1, 8.46) = 2.33
10 M 2.77 0.33 (2.08–3.46)
Following the doctor's instruction for taking drug : 1–4 BL 3.90 0.10 (3.67–4.13) F (1, 1.25) = 0.00
10 M 3.90 0.10 (3.67–4.13)
Learning about your treatment or self-care : 1–4 BL 3.30 0.24 (2.78–3.82) F (1, 9) = 0.00
10 M 3.30 0.24 (2.78–3.82)
Talking to other patients about your treatment or self-care : 1–4 BL 1.90 0.39 (1.04–2.76) F (1, 9) = 7.23*
10 M 2.60 0.39 (1.74–3.46)
Self-efficacy to protect the instructions and goals of nutritional guidance : 0–100 BL 62.00 3.63 (54.33–69.67) F (1, 9) = 6.44*
10 M 73.00 3.63 (65.33–80.67)
Self-efficacy to keep diabetic self-care activities : 0–100 BL 71.00 4.41 (61.40–80.60) F (1, 9) = 3.12
10 M 77.00 4.41 (67.40–86.60)
Self-efficacy to keep renal self-care activities : 0–100 BL 67.00 7.39 (51.11–82.89) F (1, 9) = 2.14
10 M 77.00 7.39 (61.11–92.89)
Self-efficacy to manage daily life under the distressing symptoms : 0–100 BL 56.00 6.88 (40.64–71.36) F (1, 9) = 18.78**
10 M 69.00 6.88 (53.64–84.36)
Self-efficacy to alleviative stress associated with the illness : 0–100 BL 55.00 7.64 (38.28–71.72) F (1, 9) = 3.46+
10 M 65.00 7.64 (48.28–81.72)
Self-efficacy to manage affects : 0–100 BL 70.00 7.75 (53.53–86.47) F (1, 9) = 0.00
10 M 70.00 7.75 (53.53–86.47)
Experience subjective symptoms of diabetes : 0–100 BL 40.00 10.72 (16.16–63.84) F (1, 9) = 2.93
10 M 49.00 10.72 (25.16–72.84)
Experience subjective symptoms of kidney disease : 0–100 BL 26.00 9.44 (5.65–46.36) F (1, 9) = 4.06+
10 M 43.00 9.44 (22.64–63.36)

e-Mean, estimated marginal mean; SE, standard error; CI, confidence interval; BL, baseline; 10M, 10 months; + p<.10, * p<.05, ** p<.01.

3.患者の反応

患者の90%は介入開始時に腎機能低下の自覚症状がなく、突然の告知に戸惑っており、2名は質問紙(STAI)では低値だったものの面接で強い不安を呈したため、この戸惑いや不安を和らげつつ心理面接を行った。現状に加えて糖尿病である事実を受け入れていない態度(否認)であった2名は、否認に対して性急な直面化を促さず21)、現実的に実施できていることに焦点付けた面接を行った。第1回面接をきっかけに、糖尿病に対する自身の態度に過去の経験が影響していることに気づいた1名には、第2回面接ではその気付きを共有し、過去の経験を整理できるようサポートした。

4.スタッフの反応

スタッフ全員から「普段自分たちでは聞けない患者の気持ちを知ることができた」という評価を、その他「自分の関わりの理論背景を知ることができた」、「自分の関わりが正しいと言ってもらって自信がついた」、「糖尿病と診断された後コントロールが良好な患者については、生活習慣への積極的介入は初期の頃行われたのみで長年経過している場合が多いが、本実践をきっかけに、改めて生活習慣の振り返りを行う機会となった」と評価を得た。

考 察

本症例では、医師による通常の糖尿病治療に加え、内科診療所でも実施が可能な範囲で、月1回、管理栄養士と臨床心理士による面接を加え、チームで行動医学介入を行った結果の有用性を検討した。結果、e-GFRに加え腎機能との関連が強い尿酸値や脂質成分といった血液生化学的データは、介入により改善傾向を示した。本報告はランダム化し対照群を設定した介入研究ではないため、その機序について明確なことを述べることはできないが、本症例の結果は、慢性に糸球体障害が進行する糖尿病腎症では、治療介入の目標が腎機能の回復よりもむしろ温存である点を考慮すると、診療所における行動医学介入の有用性を示唆していると考えられる。

栄養指導により、食事内容の自己報告から推定された蛋白質摂取量に有意な改善はなかったが、カリウム摂取制限の主観評定、他患者との交流経験、栄養指導を順守する自信が高まるという望ましい結果が得られた。診療所の限られた条件の中で行われた栄養指導では、継続的なセルフモニタリング等の行動変容技法を用いることができなかったものの、本症例での栄養指導に含まれていた、段階的なタスク設定や具体的な目標設定、モデル提示といった行動変容の要素によって、患者の自信を高めることに役立ったと考えられる。

さらに2回の個別心理面接では、患者の感情コントロールの自信を高めるまでの効果は認めなかったが、不快な症状や病気によるストレスへの対処効力感を高めた。また、スタッフの持つ患者像に新たな見方を提供したと評価を得た。例えば、ある患者はスタッフから「知識が豊富だが、言われた事をやろうとしない頑固な人」だと評価されていた。心理面接で「自分なりの」工夫をお聞きしたところ、過去の減量成功体験を基に生活を自己調整しており、「理由もなく体重が減るのは嫌だ」といった発言から、自分の行動改善と主観的体調や指標とがリンクしていることを慎重に確認し、納得してからその行動を生活に取り入れることを信条としていることが明らかになった。このことをフィードバックすることで、スタッフの患者に対する見方が変化した。この例のように、長年継続して通院していることで固定化されがちな患者像が、新たに臨床心理士が面接を行うことで、スタッフの持つ患者像の再構成が行われる可能性が示唆された。

心理面接では、精神症状のチェックリストで現れない不安や抑うつ症状に気づき、配慮しながら患者の気持ちを整理することが必要であった。糖尿病自体が様々な喪失をもたらす疾患であることに加え、腎疾患は、早期は自覚症状が少なく病気である実感が持ちにくい一方で、不可逆的に進行し一生抱える必要がある疾患である。したがって糖尿病腎症患者には戸惑いや怒り、あるいは不安や抑うつ症状を抱える者も多い21)。こうした患者の心理面を理解し、患者の動機づけを見極め、面接回数等の制限を配慮して、どこまで内面を掘り下げるか(掘り下げないか)の判断を行うことが必要であった。さらに心理面接で得た内容を他職種へわかりやすく伝えることが、チームで統一した対応を考えるために不可欠であった。

本報告では診療所の実情に合わせて介入計画を立てたため、臨床心理士による集中的・継続的な行動変容を行うことは難しかった。CKD患者の行動変容の内容・頻度・担当職種は、先行研究でも多様である。毎週90分の集団介入を5週間実施しセルフケア行動に有意な変化はなかったがe-GFRが62.04から67.3へ有意に改善したという報告22)、看護師が1時間の面談を4回、30分の電話面談を6カ月の間に計5回行いe-GFRが35.7から37.1に有意ではないが改善したという知見23)、あるいは健康診断時に栄養士と運動指導士が1回アドバイスを行った結果、e-GFRが1年後、男性が87.9から88.4(女性は89.6から92.5)に有意ではないが改善したという知見がある24)。本症例では、臨床心理士による2回の面接で患者の動機づけを高めることが示唆されたが、行動の獲得や維持を支援する面接を追加することができれば、介入効果を高めた可能性がある。介入効果と投入できる人的資源等のバランスをとりつつ、診療所で実施可能な行動変容の内容や頻度、担当職種については今後検討すべき事項であると思われる。その際、地域の20施設より糖尿病腎症患者を抽出し、看護師による6ヵ月間の介入で生活習慣変容を促した研究25)のように、プライマリケアでの行動医学を地域として支える仕組みづくりも今後ますます必要となると考えられる。

最後に本報告の限界を述べる。本報告では、診療所の通常診療内で測定可能な指標を用いた。そのため蛋白質摂取量や腎機能の評価は推定値となり、結果が過大または過小に評価されている可能性がある。同様に、統計的処理によって体重変動の個人差を除いたとはいえ、参加者の6割はBMIが25を超えていた。肥満傾向にある患者はわずかな体重の減少でも各種指標に影響を与える可能性があるため、今回の結果を一般化することには慎重になる必要がある。また、臨床心理士の介入効果については、患者やスタッフの主観報告・言語報告に留まっている点が限界である。

謝 辞

本報告にあたり、日本心理臨床学会研究助成金2012.(ii)-1の適用を受けた。

文 献
 
© 2015 日本行動医学会
feedback
Top