行動医学研究
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第16回内山記念賞を受賞して
第16回内山記念賞を受賞して
井合 真海子
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2015 年 21 巻 2 号 p. 109

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この度は、栄誉ある賞を賜り、誠にありがとうございます。著者一同心よりお礼申し上げます。また、受賞論文を作成するにあたりご指導いただいた先生方、研究に協力していただいた多くの皆様にも深く感謝を申し上げます。

受賞論文は、行動医学研究第19巻2号において発表した原著論文「見捨てられ場面における見捨てられスキーマと思考・感情・行動との関連」です。この論文は、境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder:BPD)の傾向をもつ大学生を対象として、実際の見捨てられ場面において示される見捨てられることに関する考え方(見捨てられスキーマ)の働きと思考・感情・行動との関連を調べることを目的として、量的・質的な実証研究を行ったものです。その結果、以下のような知見が得られました。

・見捨てられ場面における対人スキルの欠如や、肯定的解釈の不足などが、見捨てられスキーマの維持・強化につながることが示唆された。

・見捨てられ場面において見捨てられスキーマが賦活しており、快感情の低下やその場面における否定的解釈、相手と距離をとるといった対処行動に影響している可能性が示された。また、見捨てられ場面における相手の親密度の違いによって、賦活する見捨てられスキーマの内容が異なることが明らかとなった。

本論文の結果により、BPDの傾向を持つ者は、見捨てられスキーマが賦活することで、見捨てられ場面の解釈や対人関係の対処行動に影響を与え、それらの対処がさらに見捨てられスキーマを維持・強化するという悪循環に陥っている可能性が示唆されました。

本論文は、私の博士論文の一環として行われた研究です。私は博士論文で、臨床群ではないものの、BPDの傾向をもつ者の病理メカニズムの解明と、有効な介入法の検討を目的とした研究を行いました。受賞論文を含む一連の研究から、BPDの傾向を持つ者は、対人関係や感情調節の面で、様々な困難感を抱えていることが示されました。先行研究ではBPDの傾向を持つ者は、将来的にうつ病や不安障害を発症するリスクが高いことが指摘されています。こうしたリスクや困難感を抱える方々がよりよい生活を送るために、今後も有効な支援法を模索していきたい所存です。

また、残念ながら、本邦では海外と比してBPDおよびBPDの傾向を持つ者に関する実証研究が乏しいという現状があります。海外では数百人単位の大規模な研究プロジェクトがいくつもあり、毎年多くのBPDに関する研究が発表されています。本邦でも将来的にこのような活発な研究がなされることを心から望んでおります。そのためには、まず自らが積極的に研究に取り組み、研究成果を公表していくことが責務であると考えます。

私は、現在はBPDに対するグループセラピーの効果に関する研究にも取り組んでおります。本邦においては、BPDやBPDの傾向をもつ方々に対する支援は未だ発展途上にあります。セラピーに関する研究にご協力いただいた方々からも、セラピーを受けようと思ってもなかなか良い受け入れ先が見つからない、もっと多くの人々に支援の手が届くようになってほしい、という切実な声が届いています。研究者として、はがゆい思いを感じております。今後も、これらの方々への支援の道筋を立てられるような研究を行い、研究に協力してくださっている皆様に少しでも還元したいと考えております。

この度内山記念賞を拝受し、さらに第21回日本行動医学会学術総会にて第16回内山記念賞の受賞講演の場を設けていただいたことで、研究を少しでも多くの方に知っていただく機会になったことを大変嬉しく感じております。受賞を励みに、これからも研究に邁進してまいります。

最後に、今回このような執筆の機会を与えていただいた日本行動医学会の先生方に心よりお礼を申し上げます。

 
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