行動医学研究
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原著
病棟看護師における感情労働とワーク・エンゲイジメントおよびストレス反応との関連
加賀田 聡子井上 彰臣窪田 和巳島津 明人
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2015 年 21 巻 2 号 p. 83-90

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要約

看護師を対象に、感情労働による心理学的影響を調べた近年の先行研究では、感情労働がバーンアウト/抑うつの悪化や職務満足感の向上に影響を与えることが着目されている。しかし、日本の看護師を対象に感情労働の心理学的側面に着目した先行研究は少なく、感情労働を要素別に分類し、ワーク・エンゲイジメントやストレス反応との関連を検証した研究は、我々の知る限り見当たらない。そこで本研究では、日本の看護師を対象に「看護師の感情労働測定尺度:ELIN」を用いて感情労働の要素を詳細に測定し、これらの各要素とワーク・エンゲイジメント、心理的ストレス反応および身体的ストレス反応との関連を検討することを目的とした。関東圏内の1つの総合病院に勤務する女性病棟看護師306名を対象に、感情労働(ELIN:「探索的理解」、「ケアの表現」、「深層適応」、「表層適応」、「表出抑制」の5下位尺度からなる)、ワーク・エンゲイジメント(The Japanese Short Version of the Utrecht Work Engagement Scale:UWES-J短縮版による)、心理的ストレス反応および身体的ストレス反応(職業性ストレス簡易調査票:BJSQによる)、個人属性(年齢、診療科、同居者の有無)に関する質問項目を含めた自記式質問紙を用いて調査を実施した(調査期間:2011年8~9月)。分析は、感情労働とワーク・エンゲイジメント、心理的ストレス反応および身体的ストレス反応との関連を検討するため、感情労働の各下位尺度を独立変数、ワーク・エンゲイジメント、心理的ストレス反応および身体的ストレス反応を従属変数、個人属性を調整因子とした重回帰分析を実施した。重回帰分析の結果、感情労働の構成要素の一つである「探索的理解」とワーク・エンゲイジメントとの間に正の関連が、「表出抑制」とワーク・エンゲイジメントとの間に負の関連が認められた。また、感情労働の構成要素の一つである「深層適応」と心理的ストレス反応および身体的ストレス反応との間に正の関連が認められた。これらの結果から、「探索的理解」を高め、「表出抑制」や「深層適応」を低減させるようなアプローチによって、看護師が自身の感情をコントロールしながらも、心身の健康を保持・増進するために有効な可能性が示唆された。

はじめに

近年、仕事や職業生活で強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は増加傾向にあり1)、職場における労働者の健康の保持増進を図ることは喫緊の課題である。特に看護師は、他職種と比較してストレスが高く、精神的疲弊状態にあることが知られており2,3,4,5,6)、看護師のメンタルヘルス対策に取り組むことは重要である。

看護師の仕事は、観察力や状況判断力が必要とされるだけでなく、対患者関係を通して悲しみや怒りといった感情を体験するなど、精神的に負荷の大きい仕事である7)。一方で、看護師は対患者関係を通して引き起こされる様々な感情をコントロールすることも求められる7,8,9)。看護師が感情をコントロールすることは、患者の不安を軽減し、安心感を与え、さらに患者の意欲を引き出すなど、治療的援助関係の向上につながっており10, 11)、質の高いケアを提供する上で不可欠なものである。

社会学者のHochschild12)は「仕事において対外的に感情を表出する際の調整のありかた」を感情労働と定義している。またHochschild12)は、感情労働において、自分自身の感情を調整するための方略を「表層演技」と「深層演技」に分類している。「表層演技」とは、自己の内なる感情とその場で表出すべき感情が異なる場合、ボディーランゲージや作り笑いをして、その場に適切な感情や表現に自分の外観を変えようとする方略である12)。一方、「深層演技」とは、感情を表面的に示すだけでなく、望ましい感情を心から感じるよう、自己の感じ方そのものを変えようとする方略である12)。TotterdellとHolman13)は、感情労働のプロセスについて、顧客との関わりによって幸福感や怒りなどの感情を経験することで、その場に適切な感情や表現に調整しようとする行為が生じ、それが「表層演技」や「深層演技」といった「感情調整の方略」に至ることを示している。これらの知見をもとに、看護師の感情労働を測定するために開発された尺度が「看護師の感情労働測定尺度(Emotional Labor Inventory for Nurses:ELIN)」14)である。ELIN14)では、Hochschild12)の概念に基づいて、看護師の感情労働を「患者にとって適切であると見なす看護師の感情を患者に対して表現する行為」と定義し、それを「探索的理解」、「ケアの表現」、「深層適応」、「表層適応」、「表出抑制」の5つの要素に分類している。このうち、「探索的理解」および「ケアの表現」は前述の「表層演技」や「深層演技」などの具体的な方略の前段階となる行為を整理・細分化した要素であり、「深層適応」、「表層適応」および「表出抑制」は「感情調整の方略」を整理・細分化した要素である。したがって、ELIN14)は、感情労働において、自分自身の感情を調整するための中核的な「方略」だけでなく、そのような方略に至る前段階となる行為も測定することで、看護師が適切であると見なす感情を患者に対して表現する行為について幅広く捉えることができると考えられる。

ここで、看護師を対象に感情労働の心理学的側面に着目した海外の先行研究について概観すると、これまでに3つの研究で、「表層演技」とバーンアウトや抑うつとの間に正の関連があることが明らかになっている15,16,17)。一方、「深層演技」とバーンアウトや抑うつとの関連については、正の関連が認められたものと、関連が認められなかったものが混在しており、一貫した知見が得られていない15,16,17)

一方、近年の産業保健心理学領域では、ポジティブ心理学の知見に基づき、従来のような精神的・身体的不調などのネガティブな指標のみに着目するだけでなく、人間の有する強みやパフォーマンスなどのポジティブな指標にも着目する傾向が高まっている。このような動きの中で「職務への燃え尽き」を意味するバーンアウトの対概念である「ワーク・エンゲイジメント」が提唱されている18)。ワーク・エンゲイジメントは、「活力」、「熱意」、「没頭」によって特徴づけられる、仕事に関するポジティブで充実した心理状態と定義されている18)。「活力」は、「就業中の高い水準のエネルギーや心理的な回復力」を、「熱意」は「仕事への強い関与、仕事の有意味感や誇り」を、「没頭」は「仕事への集中と没頭」を意味している18)。ワーク・エンゲイジメントに関する先行研究では、ワーク・エンゲイジメントが高いほど心理的苦痛や身体愁訴が少ないこと、職務満足感が高いこと、離転職の意思が低いことが明らかとなっている19,20,21)。また、感情労働が看護師の心理学的側面に与える好ましい影響(自己効力感や職務満足感の向上)22, 23)について検討した海外の先行研究では、「深層演技」と「職務満足感」との間に正の関連があることが明らかとなっている15, 16, 24)

以上の知見から、感情労働は、感情調整の方略の種類によって、バーンアウト/抑うつの悪化や職務満足感の向上に与える影響が異なることが推察される15,16,17, 24)が、これらの知見は、いずれも海外で検証されたものであり、我が国の看護師を対象とした同様の先行研究は、我々の知る限り見当たらない。その理由として、感情労働の測定尺度が我が国で十分に開発されていないことが挙げられる。ELIN14)は、我が国で感情労働を測定することが可能な数少ない尺度の一つであるものの、ELIN14)によって測定された感情労働とストレス反応ないしワーク・エンゲイジメントとの関連を検証した実証的研究は十分に行われておらず、いずれも会議録による報告に留まっている25,26,27)

そこで本研究では、日本国内の看護師を対象にELIN14)を用いて、感情労働を要素別に測定し、これらの各要素とワーク・エンゲイジメント、心理的ストレス反応および身体的ストレス反応との関連を検討することを目的とした。これらが明らかになることで、看護師が自身の感情をコントロールしながらも、心身の健康を保持・増進するために有効な知見を提供できると期待される。

方 法

1. 対象

本研究は、関東圏内の1つの総合病院(1,000床程度)で行った。調査対象者は、患者ケアに関わる機会の多い看護師とするために、看護管理者を除いた416名の病棟看護師とした。対象者のうち353名から回答が得られた(回収率:84.9%)。その後、回答に欠損のあった34名、および少数であった男性看護師13名を除外した306名(有効回答率:73.6%)を分析対象とした。

2. データの収集方法

調査手順は、調査対象病院の看護研究担当者および各病棟の看護師長に、調査の趣旨と方法を説明し了承を得た後、各病棟の看護師長を通して、調査対象者に調査票と密封できる封筒を配付した。回収については、各病棟に設置した回収袋に各人に入れてもらい、研究者が回収袋を回収した(調査期間:2011年8月~9月)。

3. 調査内容

1)感情労働

感情労働の測定尺度には、片山ら14)によって開発されたELIN14)を用いた。本尺度は、「相手の立場に立って考える」、「自分が相手に表している感情に注意を払う」などの10項目で構成される【探索的理解】、「自分の口調や表情やふるまいを意識する」、「口調や表情やふるまいによってケアを表す」などの3項目で構成される【ケアの表現】、「心に感じていることとの違いを自覚しながら感情を表す」、「無関心なことでも関心をもとうとする」などの3項目で構成される【深層適応】、「何も感じていないようにふるまう」、「驚いたり緊張したりするふりをする」などの5項目で構成される【表層適応】、「自分の気持ちを容易に出さないように気を引き締める」、「状況によっては自分の感情を抑えようとする」などの5項目で構成される【表出抑制】の5つの下位尺度、合計26項目で構成されている。それぞれの項目について「行わない」―「いつも行う」の5件法で評価し、下位尺度ごとに合計値を算出した。

2)ワーク・エンゲイジメント

ワーク・エンゲイジメントの測定には、Schaufeliら18)によって開発されたものをShimazuら28)が翻訳し、日本での信頼性・妥当性が確認されている日本語版ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度短縮版「The Japanese Short Version of the Utrecht Work Engagement Scale:UWES-J」28)を用いた。本尺度は、仕事に関してどのように感じているかを尋ねるものであり、「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」などの3項目で構成される【活力】、「私は仕事にのめり込んでいる」などの3項目で構成される【没頭】、「仕事に熱心である」などの3項目で構成される【熱意】の3つの下位尺度、合計9項目から構成されている。それぞれの項目について「全くない」―「いつも感じる」の7件法で評価した。UWESのマニュアルに基づき、各項目得点の合計値を項目数(9)で除した値を算出した。なお、日本人を対象とした先行研究では、下位尺度間の内部相関が高いことが明らかになっているため28)、下位尺度ごとの合計値は算出しなかった。

3)心理的ストレス反応および身体的ストレス反応

心理的ストレス反応および身体的ストレス反応の測定には、下光ら29)によって開発された「職業性ストレス簡易調査票(Brief Job Stress Questionnaire:BJSQ)」29)を用いた。BJSQ29)には、ストレス反応を測定するものとして「活気」、「イライラ感」、「疲労感」、「不安感」、「抑うつ感」、「身体愁訴」の下位尺度が含まれている。このうち、ポジティブな心理的反応である「活気」を除いた「イライラ感」、「疲労感」、「不安感」、「抑うつ感」の4下位尺度を合計して「心理的ストレス反応」を測定した。また、「身体愁訴」の下位尺度を用いて「身体的ストレス反応」を測定した。心理的ストレス反応は、「怒りを感じる」などの15項目で構成され、身体的ストレス反応は、「食欲がない」などの11項目で構成されている。各項目について「ほとんどなかった」―「ほとんどいつもあった」の4件法で評価した。

4)個人要因に関する項目

性別、年齢(20–29歳/30–39歳/40–49歳/50歳以上)、診療科(外科/内科/集中治療室:ICU、CCU、GCU/精神科/小児科/産科/その他:主科以外の混合病棟)、および同居者の有無について質問した。

4. 分析方法

変数間の単相関についてPearsonの積率相関係数を算出した。相関係数の基準30)について、相関係数の絶対値が1.0~0.7を「強い相関あり」、0.7~0.4を「中程度の相関あり」、0.4~0.2を「弱い相関あり」、0.2~0.0を「ほとんど相関なし」とした。次に、感情労働の各下位尺度を独立変数、ワーク・エンゲイジメント、心理的ストレス反応および身体的ストレス反応を従属変数、個人属性(年齢、診療科、同居者の有無)を調整因子とした重回帰分析を実施した。なお、重回帰分析では、年齢および診療科はダミー変数として投入し、標準化偏回帰係数を算出した。統計パッケージIBM SPSS Statistics 19Jを使用した。

5. 倫理的配慮

調査は無記名で参加は自由意思によること、研究参加への同意が得られない場合でも不利益を被ることがないこと、途中でも研究参加を拒否できること、データは統計的に処理し、病院や個人が特定できないようにすること、研究以外では使用しないこと等を文書で説明し、自記式質問紙の提出をもって同意が得られたこととした。本研究は、首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会および調査対象病院の倫理委員会で承認を受け実施された。

結 果

解析対象者の特徴をTable 1に示した。年齢に関しては29歳以下が59.2%と半数以上を占めた。診療科別では、その他(主科以外の混合病棟)が25.8%と最も多く、集中治療室22.9%、小児科12.7%と続いた。同居者の有無に関しては、「なし」の者が65%であった。また、感情労働、ワーク・エンゲイジメント、心理的ストレス反応および身体的ストレス反応の各尺度におけるクロンバックのα信頼性係数はいずれも0.75以上であり、概ね良好な内的整合性が確認された。

Table 1. Demographic characteristics of the participants (N=306, all female nurses)
Characteristics n (%) orMean ± SD Cronbach’s α
Age*
 ≤29 181 (59.2)
 30–39 88 (28.8)
 40–49 32 (10.5)
 ≥50 5 (1.6)
Ward specialty
 Surgical ward 22 (7.2)
 Medical ward 37 (12.1)
 ICU, NICU, GCU 70 (22.9)
 Psychiatry ward 21 (6.9)
 Obstetrics ward 38 (12.4)
 Pediatric ward 39 (12.7)
 Others 79 (25.8)
Living with housemates
 Yes 107 (35.0)
 No 199 (65.0)
Emotional labor (subscale of ELIN)
 Exploring and understanding 35.3 ± 5.2 0.90
 Expression of caring 10.8 ± 2.3 0.75
 Deep adjustment 9.4 ± 2.4 0.77
 Surface adjustment 14.3 ± 4.1 0.79
 Suppressed expression 16.0 ± 3.9 0.82
Work engagement (total score of UWES-J) 2.2 ± 1.0 0.93
Psychological stress response (subscale of BJSQ§) 32.1 ± 9.2 0.93
Physical stress response (subscale of BJSQ§) 20.1 ± 6.3 0.85

*Age is categorical variable which is assigned four continuously variables. †Emotional Labor Inventory for Nurses. ‡The Japanese Short Version of the Utrecht Work Engagement Scale. §Brief Job Stress Questionnaire.

感情労働の各下位尺度、ワーク・エンゲイジメント、心理的ストレス反応および身体的ストレス反応の変数間の相関係数をTable 2に示した。感情労働の各下位尺度とワーク・エンゲイジメントとの関連について、「探索的理解」とワーク・エンゲイジメントとの間に弱い正の相関を示した。また、感情労働の各下位尺度と心理的ストレス反応との関連については、「探索的理解」および「ケアの表現」を除くすべての下位尺度との間に弱い正の相関を示した。さらに、感情労働の各下位尺度と身体的ストレス反応との間に、「探索的理解」を除くすべての下位尺度との間に弱い正の相関を示した。

Table 2. Correlations between work engagement, psychological stress response, physical stress response and emotional labor (N=306, all female nurses)
Characteristics 1 2 3 4 5 6 7
Emotional labor (subscale of ELIN†)
1 Exploring and understanding
2 Expression of caring 0.50**
3 Deep adjustment 0.40** 0.60**
4 Surface adjustment 0.23** 0.37** 0.60**
5 Suppressed expression 0.37** 0.50** 0.56** 0.55**
6 Work engagement (total score of UWES-J) 0.28** 0.12* 0.03 0.04 0.11*
7 Psychological stress response (subscale of BJSQ§) 0.07 0.19** 0.30** 0.21** 0.25** 0.31**
8 Physical stress response (subscale of BJSQ§) 0.14* 0.20** 0.31** 0.22** 0.24** 0.29** 0.67**

Pearson product-moment correlation coefficient were used. *p<0.05, **p<0.01. †Emotional Labor Inventory for Nurses. ‡The Japanese Short Version of the Utrecht Work Engagement Scale. §Brief Job Stress Questionnaire.

感情労働の各下位尺度を独立変数、ワーク・エンゲイジメント、心理的ストレス反応および身体的ストレス反応を従属変数、個人属性(年齢、診療科、同居者の有無)を調整因子とした重回帰分析の結果をTable 3に示した。

Table 3. Association of emotional labor with work engagement, psychological stress response and physical stress response: multiple regression analysis (N=306, all female nurses)
Work engagement (total score of UWES-J*) Psychological stress response (subscale of BJSQ) Physical stress response (subscale of BJSQ)
β (95% CI) p β (95% CI) p β (95% CI) p
Emotional labor (subscale of ELIN§)
Exploring and understanding 0.34 (0.04, 0.09) <0.01 −0.90 (−0.39, 0.07) 0.18 −0.02 (−0.18, 0.13) 0.74
Expression of caring 0.06 (−0.04, 0.09) 0.42 0.02 (−0.51, 0.68) 0.77 0.02 (−0.34, 0.47) 0.76
Deep adjustment 0.03 (−0.05, 0.07) 0.76 0.23 (0.26, 1.50) 0.01 0.24 (0.21, 1.05) <0.01
Surface adjustment −0.00 (−0.03, 0.03) 0.97 0.01 (−0.29, 0.36) 0.84 0.05 (−0.15, 0.30) 0.51
Suppressed expression −0.27 (−0.10, −0.03) <0.01 0.13 (−0.04, 0.64) 0.08 0.07 (−0.12, 0.34) 0.36
Age (reference: ≥50)
≤29 −0.19 (−1.23, 0.47) 0.38 −0.10 (−10.18, 6.60) 0.68 −0.18 (−7.94, 3.45) 0.44
30–39 −0.15 (−1.18, 0.53) 0.46 −0.08 (−10.02, 6.79) 0.71 −0.08 (−6.77, 4.64) 0.72
40–49 −0.06 (−1.06, 0.71) 0.70 −0.08 (−11.19, 6.22) 0.58 −0.00 (−5.94, 5.88) 0.99
Ward specialty (reference: others)
Surgical ward −0.01 (−0.47, 0.38) 0.83 −0.13 (−8.83, −0.42) 0.03 −0.13 (−6.00, −0.30) 0.03
Medical ward −0.04 (−0.48, 0.22) 0.47 −0.04 (−4.54, 2.41) 0.55 −0.05 (−3.35, 1.36) 0.41
ICU, NICU, GCU −0.21 (−0.79, −0.18) <0.01 0.08 (−1.27, 4.78) 0.25 0.01 (−1.87, 2.23) 0.86
Psychiatry ward −0.06 (−0.65, 0.23) 0.35 0.00 (−4.30, 4.37) 0.99 −0.02 (−3.50, 2.39) 0.71
Obstetrics ward 0.07 (−0.15, 0.55) 0.27 −0.02 (−4.08, 2.82) 0.72 −0.09 (−4.06, 0.62) 0.15
Pediatrics ward 0.04 (−0.23, 0.05) 0.51 0.11 (−0.28, 6.55) 0.07 0.08 (−0.76, 3.87) 0.19
Living with housemates
Yes −0.04 (−0.30, 0.15) 0.50 0.01 (−2.04, 2.35) 0.89 0.03 (−1.11, 1.87) 0.62
Adjusted R2 0.15 0.10 0.10

*The Japanese Short Version of the Utrecht Work Engagement Scale. †Brief Job Stress Questionnaire. ‡Standardized partial regression coefficient. §Emotional Labor Inventory for Nurses. ¶Age is categorical variable which is assigned four continuously variables.

感情労働の各下位尺度とワーク・エンゲイジメントとの関連において、「探索的理解」とワーク・エンゲイジメントとの間に有意な正の関連が認められた(β=0.34、p<0.01)。一方、「表出抑制」とワーク・エンゲイジメントとの間に有意な負の関連が認められた(β=–0.27、p<0.01)。「ケアの表現」、「深層適応」、「表層適応」はワーク・エンゲイジメントとの間に有意な関連が認められなかった。

感情労働の各下位尺度と心理的ストレス反応との関連において、「深層適応」と心理的ストレス反応との間に有意な正の関連が認められた(β=0.23、p<0.01)。また、感情労働の各下位尺度と身体的ストレス反応との関連においても「深層適応」と身体的ストレス反応との間に有意な正の関連が認められた(β=0.24、p<0.01)。「探索的理解」、「ケアの表現」、「表層適応」、「表出抑制」は心理的ストレス反応および身体的ストレス反応との間に有意な関連が認められなかった。

考 察

本研究は、1つの総合病院に勤務する病棟看護師を対象に、感情労働とワーク・エンゲイジメント、心理的ストレス反応および身体的ストレス反応との関連を検証した。個人属性を調整因子とした重回帰分析の結果、感情労働の構成要素の一つである「探索的理解」とワーク・エンゲイジメントとの間に正の関連が、「表出抑制」とワーク・エンゲイジメントとの間に負の関連が認められた。また、感情労働の構成要素の一つである「深層適応」と心理的ストレス反応および身体的ストレス反応との間に正の関連が認められた。

1. 感情労働とワーク・エンゲイジメントとの関連

本研究では、「探索的理解」とワーク・エンゲイジメントとの間に有意な正の関連が認められた。感情の適切な表現方法を探索しながら患者への理解を示す行為14)は、患者への理解を深めるとともに、患者との信頼関係の構築を促進する31)。その結果、看護師自身の看護ケアへの達成感や充実感が高まり32)、仕事の意味を見出す機会や成長へとつながることが指摘されている32)。これらより、「探索的理解」は、ワーク・エンゲイジメントの向上につながった可能性がある。

一方、「表出抑制」とワーク・エンゲイジメントとの間には有意な負の関連が認められた。看護師は、患者に悲しみや苛立ち、困惑、不安などの否定的感情を抱く場合、それを言語化したり、表現したりせずに、自己の感情を抑制し、平静さを保つことがある7)。このような自己の感情抑制は、患者への関わりの回避や関心の低下につながり7)、ワーク・エンゲイジメントの低下につながった可能性がある。

2. 感情労働とストレス反応との関連

重回帰分析の結果、「深層適応」と心理的ストレス反応および身体的ストレス反応との間に有意な正の関連が認められた。この結果は、「深層適応」と不安感との間に正の関連が認められたとする片山ら33)の先行研究と一致していた。「深層適応」とは、自己の感情の状態を意識しながらも患者に対して適切な感情を喚起させて表現すること14)である。このような、自己の感情に反して患者から期待される感情を示そうとする継続的努力が感情的不協和となり、心理的および身体的ストレス反応を高めた可能性がある12,34)

3. ワーク・エンゲイジメントやストレス反応と関連のなかった感情労働の構成要素

本研究では、「表層適応」および「ケアの表現」とワーク・エンゲイジメントおよび心理的・身体的ストレス反応との間に有意な関連が認められなかった。

「表層適応」とは、本当の感情を抑制しながら表面を取り繕っている状態、すなわち「自己不一致」と捉えることができるため、ワーク・エンゲイジメントとの間には関連が認められなかったと考えられる。「表層適応」と心理的ストレス反応との関連については、片山ら33)の研究では「表層適応」と「(BJSQ29)で測定した)抑うつ」との間に有意な負の関連が認められており、本研究とは異なる知見が得られている。BJSQ29)で測定している「抑うつ」は、ストレス反応が最も進展した状態で顕在化する症状であることが明らかとなっていることから35)、本研究で測定している心理的ストレス反応は、抑うつだけでなく、イライラ感や不安感など、ストレス反応が重篤でなくても顕在化する症状を含んでいるため、片山ら33)の研究と結果が一致しなかった可能性がある。

また、ケアの表現とは、口調、表情やふるまいなどのケアの動作によって、患者に感情を伝える行為であり、個人の「看護技術」や「仕事への捉え方」が影響すると考えられる。しかし、本研究ではこれらの情報について測定していないため、「ケアの表現」とワーク・エンゲイジメントおよび心理的・身体的ストレス反応との関連が見かけ上、認められなかった可能性がある。今後、「看護技術」や「仕事への捉え方」の違いによって、これらの関連が異なるかを確認するため、交互作用を検討する必要がある。

さらに、ワーク・エンゲイジメントを鍵概念とする「仕事の要求度―資源モデル」では、ワーク・エンゲイジメントやストレス反応は、仕事の要求度 (仕事の量的・質的負担、身体的負担、情緒的負担など)、仕事の資源 (仕事のコントロール、報酬、上司・同僚の支援など)、個人の資源(自己効力感、レジリエンスなど)により規定さることが指摘されている36, 37)。一方、本研究で注目した感情労働は、その一部に情緒的負担を含んではいるものの、ワーク・エンゲイジメントやストレス反応に影響を及ぼしうる要因の一部にとどまっている。また、ワーク・エンゲイジメントやストレス反応には、上述した仕事の要求度、仕事の資源、個人の資源のほかに、仕事外の要因(家庭での要求度や資源、ワーク・ライフ・バランスなど)も影響していた可能性がある38, 39)

本研究の限界

本研究は横断研究であり、感情労働とワーク・エンゲイジメントおよびストレス反応との関連における因果関係を推定することができないため、今後、縦断研究を行う必要がある。また、1つの総合病院に勤務する女性病棟看護師のみを対象としており、一般化可能性に限界があるため、男性も含め、より多くの病院を対象とした調査を行う必要がある。さらに、病棟看護師と外来看護師との比較を通じて、感情労働とワーク・エンゲイジメントおよびストレス反応との関連を検討することも必要である。また、重回帰分析における自由度調整済決定係数(R2)が必ずしも高いとは言えないため、仕事の要求度、仕事の資源などの就業状況に関する情報も収集し、より適合度の高いモデルを構築したうえで感情労働がアウトカムに及ぼす影響を再検討する必要がある。

謝 辞

本研究を行うあたりご協力いただきました病棟看護師の皆様に深く感謝申し上げます。本研究は、2011年度首都大学東京大学院博士前期課程に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである。

文 献
 
© 2015 日本行動医学会
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