行動医学研究
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総説
過敏性腸症候群における アレキシサイミア傾向の影響
鹿野 理子
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2016 年 22 巻 2 号 p. 65-70

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抄録

アレキシサイミア(失感情症)は、シフネオスが古典的心身症患者の臨床観察から、心身症患者にみられる性格特性として提唱した概念である。アレキシサイミア傾向者は、情動の認識や表現ができず、情動を介したコミュニケーションが不得手で、情動体験を言語などの象徴化機能を通じて表現できない。そのため、しばしば心理療法が成立せずに治療が難渋する。アレキシサイミアの問題は情動制御の困難さにあるとされ、心身症のみならず、様々な精神疾患、死亡率や心臓死率にも関連することが報告されたが、情動制御が身体症状に関連するメカニズムは十分に解明されてはいない。過敏性腸症候群は、器質的所見がないものの、便通異常に伴う腹痛を慢性的に示す症候群で、ストレスがその発症や症状の増悪に影響する。最もよく見られる典型的な心身症のひとつである。過敏性腸症候群においてもアレキシサイミア傾向との関連が報告されている。アレキシサイミアでは特に陰性感情を調整することができずに、陰性情動に伴う身体的過覚醒の状態、自律神経系、および神経内分泌反応が亢進し、それらが身体症状の発症、および増悪因子となると推測されている。これまでのアレキシサイミア研究では、疫学研究はアレキシサイミアと心身症を含む様々な疾患群との関連を示し、神経生理学的研究、および脳科学研究はアレキシサイミアの特徴をこの仮説を支持する形で提示している。しかしながら、特に多くの神経生理学的研究では臨床症状を呈さない健常者でのアレキシサイミア傾向が高いものを対象としており、情動が身体症状に影響するメカニズムを解明するにあたり、疾患群での検討が必要である。本総説では、これまでのアレキシサイミアと過敏性腸症候群の関連を検討した先行研究を総括し、自験例を示し、過敏性腸症候群の脳腸相関の病態へのアレキシサイミア傾向の影響を考察する。

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