行動医学研究
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総説
問題解決アプローチの実践: ポジティブ・サイコロジーと 問題解決アプローチ
喜多島 知穂
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2017 年 23 巻 1 号 p. 9-15

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抄録

背景:世界各国・地域において「主観的幸福感」「健康」「社会生活環境」等をもとにした「幸福度指標」を策定 する動きが広まっている。また、医学や保健領域ではポジティブ・サイコロジーの健康影響に関するエビデンスが集積され、日本で も「ポジティブ・サイコロジー医学会」が設立されるなど、注目されている。本論文の研究目的は、ポジティブ・サイコロジーのア ウトカムのひとつである「主観的幸福感」を簡便かつ定量的に評価するための尺度を国際的な質問紙を参照しながら提示し、幸福 に関係する社会生活環境因子に関して生態学的な地域相関分析を行い、これらの知見を基に、臨床現場や地域保健活動で実践で きる「健康で幸福な社会づくり」の方策を「課題解決アプローチ」に即しながら示すことである。 方法:主観的幸福感尺度の素案作成に関しては、主観的幸福感に関する質問票39尺度を収集し、測定項目などをカテゴリー分け し、尺度の信頼性・妥当性の検討の有無や検討対象者の年代などを考慮して素案作りを進めた。社会生活環境要因の地域特性把 握に関しては、国内で過去3年度(2012年、2014年、2016年)に公開された「全47都道府県幸福度ランキング」(東洋経済新 報社)の都道府県別ランキングを目的変数とした。目的変数を2値データとして扱う場合は、中央値、すなわちランキング24番目よ り上位の都道府県と24位~47位の都道府県との2群に分けた。説明変数としては、社会生活環境要因など34項目の単相関をピア ソン積率相関係数で確認した後、因子分析の結果や先行研究などを参考にして合計21変数を選択し、ロジスティック回帰分析によ る多変量解析を行った。また、感度分析として、幸福度を連続量として取り扱った重回帰分析も実施した。 結果:文献検索の結果、質問紙に関しては、日本人が絶対的幸福感に加えて相対的幸福感も重要視する傾向にあるという点を配 慮している「協調的幸福感尺度」と、直近の感情や環境の変化の影響を受けにくい絶対的幸福感を測定できる「人生満足尺度」 の2件が方法の基準に該当したので、それらをもとに素案を作成した。社会生活環境要因の解析に関しては、重回帰ならびにロジ スティック回帰分析で過去3年度に共通して「若年完全失業率」が幸福度を下げることに関して有意な関連性が示された。 考察:「幸福度指標」の作成から解決策立案に向けて、課題を以下のように6段階に整理した。①主観的幸福感尺度の信頼性・妥 当性の検討、②地域の社会生活環境の特徴把握と主観的幸福感の関係性の検討、③社会生活環境の項目選択、④幸福度指標 の作成(主観的幸福感・健康・社会生活環境の3構成)、⑤幸福度指標づくりに関与する専門団体や国・自治体委員会への提案、 ⑥各自治体で幸福度指標に基づき解決策案を作成する。本論文では「若年完全失業率」との関連性が示されたが、先行研究より 若者完全失業率は主観的幸福感を低下させることが明らかにされており、各国の幸福度指標においても失業率は項目に含まれてい る。さらに国内で過去に行われた若年層の幸福度調査でも失業中の若者の幸福感が低いことが示されていることを加味すると、地 域特性把握に向けて若者失業率は何らかの影響を与えている可能性が高く、今後の調査においても重点課題のひとつとしたい。

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