抄録
さまざまな心理行動的問題の中核として、不快な体験を避けようとする試みである“体験の回避” が注目されている。
体験の回避は「思考、感情、性格がコントロールできれば問題は解決するだろう」というような考えである“変化のアジェンダ” によって維持、促進される。つまり、誰もが自然と持つ上記のような考えが、体験の回避を引き起こす一因となっており、心理行動的問題を維持させている。したがって、体験の回避を低減するための心理的支援では、変化のアジェンダを弱めることが重要な役割を果たす。これまでにも、変化のアジェンダに焦点を当てた介入法が開発されており、研究が進められているが、変化のアジェンダを測定するためのツールは未だ開発されていない。そこで本研究では、変化のアジェンダを測定するChange AgendaQuestionnaireを作成し、その信頼性と妥当性を検討することを目的とした。共通の10項目を用いて、変化のアジェンダの確信度(CAQ-believability)と、それに従った行動の程度(CAQ-avoidance)を測定する尺度を作成し、大学生259名ならびにカウンセリング導入となった、気分障害、不安症、または睡眠障害をもつ患者16名から回答を得た。因子分析により項目を抽出し、構造的妥当性を確認した後、内的整合性を確認するためα係数を算出した。また、同一集団に再調査を実施し、再検査信頼性を確認した。さらに、変化のアジェンダとの関連が想定される概念を測定する尺度との相関分析を実行し、収束的妥当性を確認した。その他、学生群と臨床群での得点の差を検討した。解析の結果、7項目が抽出され、概ね十分な構造的妥当性、内的整合性、再検査信頼性を有することが確認された。収束的妥当性については、並行検査との相関が想定したほどの大きさではなかったが、相関のパタンは想定どおりであった。また、CAQ-believabilityとCAQ-avoidanceで、並行検査との相関パタンに差異が認められ、両尺度の弁別ができる可能性が示された。臨床群と学生群とでの比較では、どちらの尺度でも臨床群で高得点を示したが、CAQavoidanceでは効果量が小さかった。今後は、CAQを経時的に測定し、時系列的な変化(反応性)を捉えることも、妥当性の確認には必要と考えられる。とくに、変化のアジェンダへの介入によってCAQ-believabilityが変化し、続いてCAQ-avoidanceが変化するというような経過の差異が明らかになることで、CAQの使用法と2つの尺度を作成した意義を明確に示すことが可能となると考えられる。また、さらに多くの臨床群、他地域、他年齢層など、対象を広げて調査をする必要がある。その他、私的出来事を変化させようとする行動の頻度とCAQの得点との対応や、介入による行動の変化とCAQ得点の変化の対応を実験的に検討していくことで、その妥当性を確認していく必要がある。支援に際しては、質問紙の得点の改善ではなく、対象者の行動レパートリーを拡大し、QOLを向上することが目標となる。そのため、今回作成したCAQも、その目標を達成するための“ツール” として活用されることが望まれる。