行動医学研究
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総説
小児の睡眠時無呼吸
木村 真奈美和田 裕雄谷川 武
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2018 年 23 巻 2 号 p. 70-

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抄録

成人の睡眠呼吸障害(Sleep Disordered Breathing: SDB)は、心血管疾患やうつ病などのリスクとなる他、仕事中のミスや交通事故の増加と関連する。小児においても、SDBは成長・発達不全、認知機能低下、学業成績不良などの原因となる。SDB罹患児が落ち着きのなさなどを呈し、注意欠如・多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder: ADHD)として診断される場合もある。SDBの疾患概念や診断基準については様々な議論がある。例えば、小児SDBを「いびき-上気道抵抗症候群(Upper Airway Resistance Syndrome: UARS)-睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea: OSA)」と連続するスペクトラムで捉える概念が提唱されている一方、UARSはOSAとは別の独立疾患であるという主張もある。また近年、いびき症状と認知・行動面の問題との関連が報告されており、無呼吸低呼吸指数(Apnea Hypopnea Index: AHI)の値に関わらず、いびき症状の中に治療対象となる「病的いびき」が存在する可能性が示唆されている。小児SDBの発症には複数の要因が関与する。扁桃肥大や肥満など、上気道狭窄の原因となる病態の他、上気道を構成する筋の緊張や、遺伝的素因も重要な病態因子である。最近の見解では、潜在する上気道の筋の運動制御や緊張の異常に扁桃肥大やアデノイドが加わった場合に、睡眠中の機能的な気道閉塞に至ると考えられている。小児のSDBの有病率は、数%程度と推定される。小児のOSAの発症率は2歳から6歳にピークがあり、それは、気道のサイズとも関連して、扁桃やアデノイドが相対的に最も大きくなる時期である。また、体型や体質、頭蓋顔面形態の発達に伴い、思春期に2回目のピークが存在する。肥満とアデノイド・扁桃肥大は、いずれも小児SDBの重要な発症要因である。現在、低年齢の小児ではアデノイド・扁桃肥大がSDBの主要な発症要因であり、年齢を経るにつれ、体重がより大きな影響を及ぼすようになると考えられている。SDBの夜間の症状には、いびき、無呼吸、頻回の覚醒、奇異呼吸、遺尿などがある。SDBの日中の症状には、扁桃肥大による口呼吸や、慢性鼻炎、鼻閉、眠気、注意力低下、などが含まれる。また、成長不全、神経認知機能の異常、行動異常、学習障害、心血管疾患などが合併する可能性もある。小児のSDBの診断基準は現在、専門家らにより慎重に検討されている。本文中では、the Classification of Sleep Disorders-Third Edition( ICSD-3)によるOSAの診断基準と、複数の医療機関で暫定的に提案されているUARSの診断手順を紹介する。小児SDBに対する治療の選択肢には、アデノイド口蓋扁桃摘出術、持続陽圧換気療法(Continuous Positive Airway Pressure: CPAP)、上顎拡大(Maxillary Expansion)、減量、局所的ステロイド治療、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術( Uvulopalatopharyngoplasty: UPPP)などが含まれる。SDBに起因する眠気や注意力低下などの症状は、学校や社会生活への適応、学業での障害となり得る。適切な治療介入により、様々な合併症の予防や改善が可能であり、眠気、集中困難、問題行動などの症状を有する小児がいた場合、SDBの可能性を検討するべきである。

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