抄録
不安反応を主な対象とした拮抗制止の技法として,従来よく用いられてきた方法に,漸進的筋弛緩法と自律訓練法がある。これらの技法が実際の臨床で用いられる場合,主として相談室内でイメージによる不安喚起刺激に直面させながら拮抗制止の手続きをとるのは一般的であり,現実の不安場面でクライエント自身が拮抗制止の手続きをとることが困難な場合が多い。本研究では,きき腕の親指と人さし指を互いにつけてその感触に注意を向けるという方法を,拮抗制止の方法として用いた。この方法は手続きが簡単なために,現実の不安場面でクライエント自身が気軽に行うことができるという利点がある。さらにこの技法に対するクライエントの動機づけや自己確信を高めるために催眠法を用いた。何らかの情緒的障害を持つクライエント20名に対して実施した結果,平均して5〜6回の指導で,主訴を「ある程度」ないし「かなり」軽減させる効果のあることが明らかになった。