行動療法研究
Online ISSN : 2424-2594
Print ISSN : 0910-6529
現実的脱感作療法と継時的接近法の併用による場面緘黙児の治療事例(事例研究)
安部 利一
著者情報
ジャーナル フリー

1987 年 13 巻 1 号 p. 79-90

詳細
抄録

本研究は,学校において全く話さないだけでなく,筋緊張が極めて強くて他人の助けなくしては動くこともできない場面絨黙児についての治療報告である。患児は,10歳の女児でWISC-RIQ99であった。患児は,社会的技能が未成熟であって,それを高めるための生活指導や治療者との信頼関係の確立を図るために,児童相談所での小集団において5ヵ月間の27回の取組みを行った。さらに,それを継続しながら実際の学校場面において現実的脱感作療法と継時的接近法を併用し,それに4ヵ月半の25回を要した。実際の学校場面における治療経過は,次のとおりであった。初期には治療者の手を握って行動していたが,次第にひとりで行動できる範囲が拡がった。教師との手紙の交換をしだしてから,教師との会話ができるようになった。それにつれて,児童たちと手紙によるコミュニケーショソが急増していき,緊張なく自由に行動したり,会話することが可能となった。治療効果の主な要因としては,不安刺激の強い学校場面での治療において,(1)信頼関係の確立した治療者が同伴したこと,(2)患児に不安と拮抗する動作・行動をさせたこと,及び(3)教師や児童たちと手紙の交換をさせたことが,会話に結びついたと考えられる。

著者関連情報
© 1987 一般社団法人 日本認知・行動療法学会
前の記事 次の記事
feedback
Top