抄録
本研究では、大学生の怒りに対する認知行動療法(CBT)、すなわちISST(inductive social skills training)の効果と同時に、個人差である怒りの表出傾向が介入効果に相違をもたらすかどうかを検討した。被験者は、怒りの特性が高く、かつ怒りの表出傾向の高い者(AO高者)と怒りの抑制傾向の高い者(AI高者)の計42名であった。 AO高者とAI高者それぞれを、 CBT群と統制(Ctrl)群に割り当て、2つのCBT群には、怒りの行動的反応を標的とするCBTを4週間実施した。その結果、 Ctrl群と比較して、CBT群では、介入直後の怒りの特性だけでなく、敵意や不安においても有意な低減がみられ、その効果は3か月後のフォローアップ時でも維持されていた。また、表出傾向別にみると、怒りの表出傾向が高い被験者のほうが低い被験者よりも効果が著しかった。怒りを表出する傾向の高い被験者には、行動的反応を標的としたCBTが有効であることが判明した。 CBTを施す際に、怒りの表出傾向まで考慮することの意義が示唆された。