2017 年 43 巻 1 号 p. 49-60
30代の女性は、交通事故により重度の脳損傷を負い、感情障害と攻撃的行動を主体とした心理社会的行動障害を示していた。神経心理学的アセスメントから感情障害の基盤には神経疲労があり、ケースフォーミュレーションからは非機能的思考が抑うつ、自尊感情低下を引き起こしているという仮説が立てられた。この仮説に基づき、認知リハビリテーションのなかでの個人療法において、リラクセーション、瞑想法、セルフモニタリング、思考中断法、認知再構成法などの認知行動療法の技法を教え、母親にも心理教育を行った。その結果、治療15か月後には抑うつ、不安が低下し、自尊感情が高まり、遂行機能にも改善が見られた。本研究から、感情障害の強い高次脳機能障害者には、器質的要因による影響を減らし、二次的反応として生じている抑うつや自尊感情の低下を認知行動療法によって抑えることが、リハビリテーションを効果的に進めるために有効であることが示唆された。