文化人類学
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文字を学び、知識を積んで、「郷土」を知ろう : ソヴィエト期南シベリアに於ける文化政策としての「文化建設」について(<特集>国家政策と近代)
渡邊 日日
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2005 年 69 巻 4 号 p. 497-519

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抄録

政策について考察するとき、文化人類学的視点は、政策の意図と受け手側の反応と言う様に、二つの極点を設定しがちであった。しかし、政策は当初の意図通りに実現される訳でもないし、受け手側と言っても始めからそれと存在するのではなく、政策の実行過程に於いて形成されるとも考えられる。そして、両者にとっても政策の効果は当初のものとズレを生じさせ、想定されなかった副産物をもたらす可能性がある。本稿は以上の視覚から、1920年代を中心に、ソ連文化政策がブリヤート(シベリアの先住民族の一つ)に与えた影響について議論するものである。ソ連は、急速な開発・啓蒙という社会主義イデオロギーと民族名称共和国からなる連邦制で成り立った、他には類を見ない国家であり、この特徴は文化政策にも反映した。殊に、革命前まで「遊牧民であり、遅れた発展段階にあった」とされたブリヤートにとって、「社会主義的文化建設」という文化政策のプロジェクトは、それまでの自分たちについての知識を大きく変更するものであった。集団政策がもたらした社会構造上の変化、及び民族名称共和国という政治制度が併せ持った知識と民族文化の制度化という特徴を略記したのち、本稿は、「文化建設」に必要であった施設の「建設」、識字教育、郷土研究、文化行事について、セレンガ・ブリヤートを事例としながら描写していく。中でも、郷土研究の全ソ連的目的とブリヤーチアでの実践形態が詳述され、両者の間に見られた相違点が強調される。最後に、本稿は、ソ連文化政策がブリヤートにとってもった意義を指摘して旧ソ連研究への一視点を確保するとともに、政策に関する今後の研究の視座を示唆したい。

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2005 日本文化人類学会
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