文化人類学
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「深い」多元性と文化相対主義(<特集>「グローバリゼーション」を越えて)
川田 牧人
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2010 年 75 巻 1 号 p. 81-100

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抄録

グローバリゼーションが進行する現代世界において重要視される課題の一つとして、「複数なるものの共存」があげられる。本稿は、フィリピン・セブ市のグアダルーペの聖母を信奉する複数の宗教コミュニティの共存関係についての考察を通して、文化人類学がこれまでいかにこの課題に対して取り組んできたか、そしてその取り組みを今後いかに継承・修正して発展させていくべきかについて検討を加えることを目的とする。文化人類学はこれまで、文化相対主義の立場を掲げてこの問題に取り組んできた。しかし多文化主義の隆盛などにより、現在、文化相対主義はその刷新を迫られている。本稿ではむしろ「深い」多元主義と接触させる可能性を検討することを通して、「当事者の文化相対主義」という観点を追究したい。セブ市のグアダルーペの聖母をめぐる宗教コミュニティは、正統性が争われる危険性もある宗教的起源伝承を集団ごとに持ち、それは自己アイデンティティの源泉ともなっているので譲歩されるものではないが、同時に対立が先鋭化されることもなく、ゆるやかな共存関係が築かれている。このような様態から、当事者による「実践」として文化相対主義を捉えなおし、グローバリゼーションによって生成されるポスト世俗化社会における生活指向を明確にする。これは、グローバリゼーションの現象そのものを対症療法的に捉えることではなく、文化人類学の方法がこれまで培ってきた方法的視座でもってグローバリゼーションを逆照射するビジョンを展開させることにもつながるはずである。

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2010 日本文化人類学会
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