文化人類学
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臓器提供に現われる身体と人格 : 生経済における贈与論のために(<特集>身体のハイブリッド)
山崎 吾郎
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2011 年 76 巻 3 号 p. 308-329

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抄録

臓器提供は、患者・家族や医療者といった当事者にとっても、この医療を研究対象とする観察者にとっても、贈与として理解されることが多い。しかし、匿名のもとでなされる臓器のやり取りに目を向けてみるとき、モースが想定していた贈与の主題と、臓器のやり取りとの間には大きな違いがある。臓器移植における贈与は、社会政策の結果として観察されるものであり、こうした事実は、臓器提供を贈与とみなすことへの批判を喚起させることにもなっている。しかしながら、贈与論の適用可能性やその妥当性を問うことは、それ自体が、理論と実践のリニアな対応関係を想定した思考の産物と言える。本稿では、贈与の語りに着目しながらも、理論の適用可能性とは別に、臓器のやり取りがいかにして臓器移植に固有な経済を生み出すのかを、当事者の行為や経験、彼らをとりまく社会関係に着目しながら考察する。とりわけ、当事者の間に現われる特殊な人格の語りに着目することで、匿名の臓器提供が、新たな身体感覚や社会関係の生成に関わっていることを明らかにする。そして、生経済の主題を、こうした贈与の潜在性から問い返す必要があることを論じる。

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2011 日本文化人類学会
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