文化人類学
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動作の連鎖・社会的プロセスとしての漁撈技術 : ボルネオ島サマによる漁撈活動を中心に(<特集>技術を語る民族誌の新たな地平)
小野 林太郎
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2012 年 77 巻 1 号 p. 84-104

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抄録

本稿は漁撈にともなう一連の人間行動を「技術」と捉える視点から、ボルネオ島東岸に居住し、海洋民としても知られてきたサマ(バジャウ)による漁撈活動を事例に、その技術的実践の中における人間と自然(あるいは環境)に対するインタラクションとしての側面について明らかにする。さらにはこの技術的実践が人間(行為者)と社会や文化とのインタラクション、あるいは社会的実践としても成立している可能性についても論じる。特に本稿では、ルロワ=グーランによって提唱された「動作の連鎖」(chaine operatoire)やその概念をより発展的に検討してきたルモニエらによる人類学的検討を踏まえた技術論として、漁撈技術を身体技法や社会的プロセスの視点より検討を試みる。これらの検討を通して指摘できるのは、道具の製作や所有の段階から、おもに利用する漁法から出漁と漁場の選択と漁法の利用、その結果として得られる漁獲の選択と水揚げ後の利用にいたる一連のプロセスの中で、行為者による選択と行動の結果が、全ての局面で連鎖的に繋がり、相互の行為へ影響を与えあっていることである。さらに本稿ではその選択過程に、行為者の置かれている経済・社会的状況が暗黙のうちに組み込まれていることを確認した。たとえばエンジンを所有していない海サマ漁師の背景には、エンジンの購入や利用にかかる経済的コストや、小型船内機を利用することで予測される逮捕や罰金といった社会・経済的コストを指摘できる。そのいっぽうで、サマ漁における出漁時間の選択が、月齢や潮汐という自然のサイクルに対応して決定されていることや、漁場の選択がその日の風の向きや強弱、潮汐の状態によっても影響を受ける事実からは、漁撈が行為者と自然環境とのインタラクションとしても成立していることを確認した。

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2012 日本文化人類学会
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