カトマンズの観光市場、タメルの宝飾店で、ツーリスト相手に商売をするインド系ムスリムの小売商人は、できるだけ高値でツーリストに売るために、彼らと「フレンド」になるという戦略をとっている。しかし、こうした戦略の過程において、小売商人は、ツーリストとのさまざまな社会的折衝を重ねた上に、その場限りとはいえない継続した関係を築くこともあり、その結果、そうしたツーリストから儲けることができなくなることもある。本稿の目的は、友好的態度や親密さが「フレンドシップ」という形で経済利益のために利用される中で、それが経済利益を得るための手段からズレていくことがいかに起こりうるのかを明らかにすることである。これを明らかにするために、本稿では、小売商人がツーリストと「フレンド」になろうとする試みを「賭け」の実践として論じる。「賭け」とは 1)不確実性を免れないながらも確実性を目指す行為実践であり、2)「賭け」から降りない限り勝敗が判然としないものである。「フレンド」になろうとする「賭け」の実践とは、具体的に、1)売るために、当のツーリストの属性(character)(社会的背景や経済力、好みなど)を会話の中から引き出しながら、親密さを表すことである(確実性を目指す行為実践)。このようにして「フレンドシップ」は利用されるが、2)小売商人は、当のツーリストに対するその都度の取引において、売れるか否か(「フレンド」か否か)の「賭け」を繰り返すことになる(勝敗の結果の先送り)。その「賭け」の繰り返しの過程において、ツーリストの抱える個別的な問題を共有することが起こりうる。本稿の意義は、そうした「賭け」の実践を通じて、取引相手に対する親密さへの志向が、取引相手からできるだけ多くの利益をとろうとする戦略の中から誘発される可能性を示唆することである。