文化人類学
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つながりへの希求と忌避 : イギリス南西部グラストンベリーの女神運動にみる共同性のあり方
河西 瑛里子
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2015 年 80 巻 3 号 p. 406-426

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抄録

本稿では、オルタナティヴ・スピリチュアリティの1つである女神運動のあるグループが拡大していく過程で、個々の実践者がどのような形での付き合い方を求めていたのかを明らかにしたうえで、オルタナティヴ・スピリチュアリティの共同性について考察する。第I章では、個人主義的な実践のあり方を特徴とするオルタナティヴ・スピリチュアリティの研究では、被調査者への配慮から、組織化への言及が欠ける傾向があると指摘する。そして、実践者どうしの関係性を考えるため参考にしたい議論として、ソーシャル・キャピタル論と共在の場を確認する。第II章では調査地グラストンベリーと対象になる女神運動の特徴を記述する。続く第III章では、実践者のライフストーリーを取り上げる。特にグラストンベリーへの移住の有無の理由に注目し、望ましいと考えられている関係性の形を示す。第IV章と第V章では、自らの内面を語り合うことで生まれる関係は避けられる一方で、パーティへの参加といった、より気楽な関係が望まれている様子を描き、その理由を検討する。得られたデータからは、他者との「つながり」は望まれると同時に避けられるということがわかった。つまり、顔を突き合わせての共在の場を求めるものの、内面を曝け出しあう関係を必ずしも望まない。実践者たちは世界観を共有できる人々との世俗的な場での付き合いを好む。というのも、女神運動の実践者は個人で女神と向き合いながらの自己変容を目指しており、信仰の共有が凝集の核になりにくいのである。また、実践者たちはそのときの自分の状況に応じて、グループを選ぶ傾向があるため、グループ問の流動性が高く、強固な組織化を阻んでいる。オルタナティヴ・スピリチュアリティに見いだされる共同性とは、宗教の私事化と組織化のベクトルのせめぎあいの中にある。

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2015 日本文化人類学会
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